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『今日は雨が降っています。いつもの憂鬱が膨れ上がり、日曜だというのに結局部屋に篭ってしまいます。こんなにも人を落ち込ませてしまう雨というものは何故降るのでしょう』 『わたしは雨の日が好きですよ。あの独特な匂いが部屋の中を循環して、今日はいつもと違う日常が流れているような気がするのです。また、晴れの日の賑やかさもしんと静まり返っていて、わくわくというのでしょうか。なんだか心が弾んでしまいます』 『そういった考え方があるなんて目から鱗でした。次の雨の日はできるだけ匂いと音に気を向けてみます』 『お互い姿すら分からないですけれど、烏丸さんにはわたしが。わたしには烏丸さんがいる。そういった意味では、まったくの一人ではないのかもしれないと近頃は思うようになりました。そしていつか』 『僕も同じです。咲良さんが手紙を見てくれているという事実が、何より僕自身を勇気付けてくれているように感じます。いつか、その続きは何ですか』 『途中書きのまま投函してしまい申し訳ありません。続きはいくら烏丸さんとはいえ、さすがに気恥ずかしいのでわたしだけの秘密にします。また、いずれその時が来たらお話ししますね』 『ところでもうすぐ春になりますね。暖かくなれば今より体の調子もよくなっていくのではないでしょうか。病は気からとも言いますし』  それを最後に彼女からの手紙は途絶え、待てど暮らせど返事は来ない。そうしてついに一週間になる。恐らく僕は嫌われてしまうような事をしてしまった。もう彼女の事を思い浮かべ文章を綴らなくとも、興味のない場所をあちこちを歩き回り彼女に伝えなくとも、一日中寮の郵便受けの前で待っていなくともいい。当初、気が楽になるはずの僕の心は喪失感だけで一杯になった。  住所がわかっている以上、会いに行こうと思えば可能ではある。ただ彼女からの拒絶を何よりも恐れた僕は、以前のような空虚に逃げ込むしかなかった。  あれから一週間が経った三月中旬のある日、一通の手紙が僕宛に届いた。差出人は咲良とある。またやり取りができる。初めは何の話から入ろう。最後まで読んで喜んで貰えるだろうか。手紙越しの彼女を思えば僕は柄にもなく、安物の布団へ飛び込んで気持ちを噛み締めるようにしばらくうずくまった。然る後、破れてしまわないようゆっくりと開封した。
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