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「私は咲良(さくら)の姉の冬花(とうか)です。知りたいですか、咲良の事。他人であるあなたにその覚悟はあるんですか」  冬花さんは僕を睨みつけた。 「もう、烏丸(からすま)さんに何て事を言うの。ごめんなさいね。この子ったら」  節子(せつこ)さんは申し訳なさそうにしている。 「咲良さんと僕は友人です。先日、僕は(ゆえ)あって彼女を怒らせてしまいました。今日はきちんと謝罪をした上で、これからも手紙を通じてたくさんの話をしていきたいんです。きっと病気だってよくなります。ですから、彼女が今どこにいるのか教えてください」  頭を下げたあと様子を窺うと二人はただ啜り泣いていた。その反応からひどく悪い予感がして、噛み締めた唇からは血の味がした。例えそうなのであっても一縷(いちる)の望みを捨てられない。僕は探してきますとだけ言い残し居間を出ようとした。 「いないの」  冬花さんから弱々しく言葉が漏れ出る。僕にはそれがはっきりと聞こえていた。もはや悪足掻きに他ならないけれども彼女に問い(ただ)した。 「どこなんですか」 「咲良はもういないんです」  ざあざあと、ふと窓の外を見れば雨は激しさを増している。雨音を掻き消すように冬花さんと節子さんは声をあげて泣き崩れた。その光景に全身から力が抜け落ちていき僕はその場で膝をついた。世界から音が消えてしまったようにただぼうっとして、拳を握る事すらも叶わない。それからどれほどの時間が経っただろう。気付けば二人は僕を見守るように側に居た。雨が小降りになってきた頃、冬花さんは語りかけるように言葉を口にしだした。 「いつも、あなたからの手紙を嬉しそうに話してくれていたんです。咲良にとってあなたは家族より大切な人だったんでしょう。本音を言えば、なぜ最後まで側にいた私ではないのかという気持ちが大きくなって、あなたへの憎しみが膨らんでいきました。でもそれは筋違いなんだとあなたの言葉を聞いてようやく理解ができました。大好きなあの子を思えばこそ、これから言う事は他でもない烏丸さんにお願いしたいんです」
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