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さしおは今日も
さしおは今日も測(はか)っていた。
まずは、橋の名前が書かれたプレートの、高さ、幅、奥行き。
次に、公園に咲いているひまわりの、葉の主脈の長さ。
そして、隣の席にすわる三木さんの、まゆげの長さ。
「さしくん、どうしたの?」
「うん、みきさん、今日もすてきだね」
「なんでまゆげの長さを測ってて、すてきって言えるの?」
「まゆげを測っていると、みきさんの顔がよく見えるからね」
「ふぅん。」
みきさんはいつも不機嫌そうなんだけど、今は怒ってはいないみたい。
*
「さしくん、さしくん。僕の足の長さ、測ってくれない? なんだか上ぐつがキツイんだ。どれだけ大きくなってるか知りたいんだけど。」
「まかせて」
さしおはいつもメモリのついた指棒(さしぼう)をもっている。
気になったものは、何でもそれで測る。
指棒の先端を持って、メモリの0㎝を足のかかとに添(そ)える。
「うーん22㎝だね」
「お! 前に測ったときは21㎝だったんだ! 大きくなったんだ!!」
「そっか~」
「さしくん、お礼と言っては何だけど、この虫メガネもらってくれない? 僕は先週新しい虫メガネを手に入れたから、これはもう使わないんだ。」
さしおは手渡された虫メガネを測る。
「13センチだ」
さしおのポケットに、ちょうど入るくらい。
「ところで、山本君はどんな新しい虫メガネを手に入れたの?」
「えへへ、ほら、……これ!」
そう言って服の下にある、首にぶら下げたペンダントルーペを見せてくれた。
*
「さしくーん。このお面の大きさ、測ってくれない?」
「うん、いいよ」
さしおは指棒をお面にあてがう。
「縦24㎝、幅20㎝だね」
「そっかあ…かぶれないことはないけど、やっぱり僕にはすこし大きいかな。」
「なんだかよく見るのより少し大きい感じがするよね。どこで手に入れたの?」
「うんと、祭の夜店で買ってもらったんだ。僕が4歳の時に買ってもらったから、もう4年くらいたったかな。大切な宝物なんだ。」
「どうして学校に持ってきたの?」
「自慢したくてね!」
「うん、素敵なお面だと思う」
「ふふふ、ありがとう。僕ね、このお面をつけて鬼ごっこがしたいんだ。みんな僕が誰なのかわからなくてビックリするだろうし、かっこいいお面だから、カッコいいとも思ってもらえるかな? って。」
「お面付けなくても、真中君はかっこいいよ?」
「へへ、ありがとう、さしくん。」
*
「さしく~ん。さしく~~ん。」
「なーに、村田さん」
「あのね、運動場にあるジャングルジムの高さが知りたいの。」
「う~ん?」
「とりあえず、来て?」
「僕の指棒では短すぎて、ジャングルジムを測れないかなあ」
「そっかあ。」
「どうして大きさを知りたいの?」
「あのね……。あのね、笑わないでね? 私ね、ジャングルジムが好きなんだけど…。」
「うん」
「それでね、なんとかわたしが大きくなって、いつかジャングルジムぐらいに大きくなったら、ジャングルジムを包むように抱きしめたいんだ。」
「そうなんだ」
「うん。」
「力になれずにごめんね」
「ううん、笑わずに聞いてくれてありがとう。」
*
「みきさん、なんでみきさんのまゆげを測ったか、理由を言ってもいい?」
「うん、なんだったの?」
「みきさんの顔、前髪が長くて目の下まであるよね、しゃべってて目が合わないなあと思ったんだ、まゆげまで髪上げたら、目が合うかなと思って」
「私の目。」
「僕ね、みきさんはキレイだと思うよ、目が透き通るような青色でさ」
「そうね。」
「隠しているのはからかわれたせい?」
「そう。」
「からかわれて悲しかった?」
「うん。」
「ねえねえさっき僕ね、お礼でって、虫メガネをもらったんだけど、これでみきさんを助けてあげられるかな? どう使ったらいいかな?」
「虫メガネでなにができるの? ふふおっかしい。」
あ。みきさんわらった。
「さしくんはどうして物の大きさを測るの?」
あ。もとにもどった。
「えっと……それはね、
その大きさだけ、この世界に存在していて
その大きさぶん、この世にいることを証明できるから
それがたまらなくすばらしくて、美しいと思うからだよ」
「まゆげ測っているとき、どうしてみきさんは怒らなかったの? 同じことお母さんにしたら『じゃま』って言われて怒られたことあるんだけど」
「うーん。私が怒るのは悲しい気持ちになった時だよ。まゆげ測られて悲しい気持ちにはならなかったからかなあ。」
「ふぅん」
「あ、ふぅんって、私のマネしてるの? ふふ」
あはは、みきさんがまた笑った。
*
さしおは、ふと、持っている虫メガネを指棒にかざしてみた。
すると、指棒がいくらかに重なり合っているのを見つけた。
「あ!、うそ!? この指棒、伸びるんだ!!? うわ~それもスゴイ長くなる!!」
さしおは興奮して指棒を、伸ばす。伸ばす。
指棒もこれでもかというくらい、伸びる。伸びる。
長くなる指棒で、測れなかったものを見直してみる。
ジャングルジムの大きさは
高さが3m
幅と奥行きが2.5m
でした。
「さしくん!! 私にも虫メガネ当てて!!
私にもどこかに! 伸びるところがあるかもしれないから!!
もし伸びしろ含めて3メートルあれば!!
私はジャングルジムを! 抱きしめられるから!!」
どこからともなく聞きつけた、ジャングルジムが好きな村田さんが、校舎の2階の廊下の窓から、そう叫んでいるのが聞こえてきた。
村田さんの声を近くで聞いていた真中君が、自分の顔より大きめのお面を見つめて、
「僕の好きなものは確かに少し大きいけど、ジャングルジムほど大きくはないな」
と思い、小さく笑った。
***
2022,02,15,火 初掲載「ラフスケッチ2022」より
2023,01,10,水 一部改稿
2024,04,22,月 一部改稿
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