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「ずっとあなたに会いたかった。そして、お礼を言いたかったんです。Shigureさんのキーチェーンが、僕にくれた幸せに。それなのに、いくら探してもあなたのサイトは見つからなくなっていたから、もう二度と叶わないかと思っていました」
僕がそう言うと、彼女はその顔を泣きそうに歪めた。でも、その表情の意味は、きっと悲しみとは逆だと思う。
「実は僕、来月結婚するんです。このオレンジの片割れを買った女性と。彼女とは、このホームで出会いました。初めて黄色い切符を受け取って、辿り着いたこのホームで待っていたのが彼女だったんです。僕は彼女の鞄についていたキーチェーンを見て、彼女は僕のこれを見て、すぐにお互いがその片割れを持っていることに気が付きました。僕らの縁を結んでくれたのは、この駅の奇跡と——Shigureさんのキーチェーンだったんです」
僕が言うと、お客様は泣きそうな表情の中に微かな笑みを刷いて言った。
「それなら……オレンジの片割れの意味はもうご存知ですか?」
僕ははっきり頷いて、いつか彼女と調べた言葉の意味を思い出す。
「生涯愛する人、ですよね?」
僕の答えに、お客様の頬は目をぎゅっと閉じて俯いた。溢れて来る涙を、どうにか堪えようとしている彼女に、僕はハンカチを差し出しながら言う。
「もし、Shigureさんが今後また作品作りを続けられることがあったら、今度は依頼からさせて下さい。妻になる人と話していたんです。もし叶うなら、結婚指輪はShigureさんの作品がいいねって」
お客様は、顔を上げてもう涙が溢れるのも構わずに笑った。
「本当に私で良いのでしたら、ぜひ……!」
黄昏時の光が、ホームを照らす。列車が再び警笛を鳴らして、出発の合図をしてくる。僕はShigureさんと顔を見合わせて、慌てて二人、列車に飛び乗った。
扉が静かに閉まり、列車が動き出す。
帰りの列車の目的地は、いつどんなお客様が乗ったとしても変わらない。
幸せ行きの列車は、駅を超えて、線路を越えて、乗客の皆様の未来へと、どこまでも走って行くのだ。
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