不思議なダンジョンと願いを叶える魔石

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 四方を山に囲まれた領土のカトルッツ王国。山に囲まれた王国では林業と農業が盛んで、それをもとに他の周辺国との貿易で、経済をうまくまわしている。  しかしここ最近になって、奇妙な病が王国民に発症しはじめた。体のあちこちに渦巻き状の発疹と高熱が出る、明らかに風邪とは違うその病は、瞬く間に国中に蔓延し、そのせいで周辺国との行き来が途絶えてしまった。 「おい、アレックス知ってるか?」  城内で飼育している馬の管理をするのが、俺の仕事だった。元々親父がやっていた仕事を俺が手伝いはじめ、現在に至る。 「なんでしょうか?」  知り合いの騎士に訊ねられたので、馬のブラッシングをやめてきちんと姿勢を正し、耳を傾けた。 「ついに例の病に、お姫様が感染したって」 「リリアーヌ様にですか!?」  国王様にはお子様が3人いらっしゃって、上のおふたりが王子様で、末が姫様だった。国王様は姫様をとても愛され、どこに行くのもお連れして、姫様のかわいらしさを場内の者や国民に披露していた。  そうして伸び伸びとお育ちになったことと、ご兄弟が王子様だからなのか、姫様は剣を習ったり、乗馬を嗜んだりする、とても活発なお方で、その関係もあって厩にも頻繁に顔を出されていて、俺とも顔見知りの間柄だった。 (最近お顔を出されなかったのは、それが原因だったなんて――)  姫様の病状を知り、気落ちした俺を見ながら、知り合いの騎士は言葉を続ける。 「城内に病が広がらないように、具合の悪いヤツは暇を出されていたよな?」 「はい。俺の両親を含めた何十人かが城を出て、教会に身を寄せました」  流行病には特効薬などないため、集められた具合の悪い者たちは、教会で死を待つしかなかった。 「アレックスのご両親の病状は――」  知り合いの騎士が訊ねにくそうに口にしたことで、思い切って事実を告げることができる。 「つい最近亡くなったと、手紙で知らされました。どんな病状で亡くなったのかまでは、一切わからなくて」 「体力のない子どもや、年寄りからやられてるしな。お悔やみ申し上げるよ」  胸に手を当てて、丁寧に頭を下げる知り合いの騎士にたいして、俺も頭を下げた。  どうにもここから話題を広げられない俺を見、知り合いの騎士が重たい口を開く。 「しかし姫様が感染したとなると、感染源は彼女の側近か親族になるだろう?」 「そうですね……」  きっと今頃、姫様に病をうつした者を徹底的にあぶり出し、急いで城の外に追い出しただろうな。 「姫様はまだ10代の若さで体力はあるが、俺らと違って、いかんせん温室育ちなのは間違いないからな。病状は厳しいだろうさ」  実際、両親が病に苦しむ姿を見ていないゆえに、姫様の病状が想像つかなかった。 「俺は一度感染して復活した身だからさ、そういうヤツがここぞとばかりに集められて、感染したお貴族様の世話をさせられるってわけ」 「一度かかると、二度はかからないものなんですか?」 「医療省の考えではそうみたいなんだが、いかんせん前代未聞の病だろ? かからないとハッキリ言いきれないのが、本音みたいだ」 「そうだったんですね」 「今日馬を借りに来たのも、国の外れを守ってるお貴族様の療養のためなんだ。すぐに動けるヤツを三頭ほど頼む!」  知り合いの騎士のセリフを聞きながら、調子のよさそうな馬を選んでいく。そして鞍をつけて、いつでも出かけられるように、手際よく準備した。 「アレックスも、病には気をつけろよ。おまえがいなくなったら、ここの馬が死んじまうんだからさ」  知り合いの騎士の忠告に大きく頷き、彼の背中を見送る。  両親と同じ病に冒された姫様が全快することを、心から祈らずにはいられなかった。
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