液晶越しのあなたの笑顔

1/1
前へ
/1ページ
次へ

液晶越しのあなたの笑顔

四角い画面をタップすると、今日もあなたがそこにいた。 元気で明るいあなたの声が、姿が映される。 その姿を見ただけで、心が少し安心するのを感じた。 あなたは楽しく話すだけで、わたしはただ、その話を聞くだけ。 それだけの関係なのに、それが一番心地がいい。 そう、思っていた。 あなたは、どんどん有名になって、毎日毎日姿を見せるようになっていった。 たまに、わたしの知らない人とコラボをするようになった。わたしはあなたしか知らないので、こういう人もいるんだなと、勉強になった。 なにより、あなたが楽しそうだったので、わたしはそれが嬉しかった。 今日もタップすると、あなたが来てくれる。 わたしは、なんだか不安に駆られるようになっていた。 まるで、取り憑かれたように、毎日毎日元気いっぱいに振る舞うあなたは、どうやら、ファンと数字とやらに囚われているようで。 すこし、休んだ方がいいのではないかと、勝手に不安になってしまった。 こういった仕事は、へんしゅう?にも、時間がかかり、体への負担も大きいと聞いた。 元気なのが取り柄だから!と笑う、あなた。 あなたが幸せならば、それでいいか。 わたしもあなたに毎日会えて、嬉しいのは本当の気持ちだった。 「大事なお知らせ」 白地の背景に、黒字の文字。 どくん、と変な音がなった。 まさか。 実生活が忙しくなったので、しばらく投稿を控える。ファンのみんなには申し訳ない。 といった、あなたにしては短いメッセージが込められていた。 すぅと、息を吸う。 これでいいんだ、と思った。 少し寂しいけれど、これで元気になってくれればそれでいい。 前のあなたに戻りますように。 あれから何度タップしても、あなたは出てこない。何日も何日も出てこない。 それくらい疲れていたのだろうか。 辛かったのだろうか。 元気なあなたは画面の中だけ。 あなたがかえってこない。 かえってこない。 どんどん数字も減っている。 もう帰ってこないのかもしれない。 それだけの関係なのだから、仕方ない。 なんて思えない。わたしがいくらかけたと思ってるの。時間をかけたと思ってるの。 許せない。 許せないから。 「会いに来ました」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加