14人が本棚に入れています
本棚に追加
南は人との距離感がバグっている。転校生なのに最初から馴れ馴れしい。最初の被害は放課後、僕がiPadで楽譜を書いている時。
「お前音楽作ってるんだって?今度俺にも作ってよ」
「なんだよいきなり」
長身でマッチョで無駄に明るい性格。陰キャでヲタの僕とは接点がない。はずだ。
「おお!センスあるじゃん」
「うわやめ、ジャック外すな!」
なんてガサツな野郎だ…
「俺さ、小説書いてんだ。眠りSTARのリンク送るからスマホ貸せ」
「いや興味な…うわああ、勝手にフルフルすんなあ!」
こんな調子で僕は一方的に南の精神攻撃を受けている。もちろん断じて友達ではない。
「よう!今度の新作は雪山が舞台なんだ」
「そうですか」
僕は無関心を装ったが、実は南の小説にハマっていた。粗野なコイツが書いたとは思えない、細やかな心情描写。
「マジで主題歌を作ってほしくてよ」
本人はアレだが作品はいいからな…
「歌詞は南が書く?」
「もちろん!楽しみだなあ」
主題歌付きの南の新作は好評を博したが、その後南は体調を崩し入院する。ま、友達でなくても見舞いくらいはイイか。
「おお!来てくれたのか」
「一応共作者だし」
「驚かせたけど来週には退院だ。でも病室であの曲を聴くと力が出るよ。俺の希望なんだ」
「よかったよ」
何とは無しにロビーの大水槽を眺める。かなりの数のカージナルテトラが大きなプレコに追われ、整った赤青の群れを作っていた。
「魚はさ、個性ってあるのかな」
「哲学か?」
「違うわ。でも寿命が短いし繁殖雑だし」
「そうだな」
「なら一匹ずつに個性とか人格はなくて、種ごとに人格…いや『魚種格』があるだけかな?とか」
「変わってんなお前」
「はい南には言われたくないやつ」
「でも俺が先頭の魚だとして、後ろの魚を守ってるだろ?それがお前だよ」
「はい頼んでませーん」
「そいつらは、生まれ変わっても友達だと思うんだよな」
「はい?何言って?」
「魚にも相性はあるんだよ」
「そこじゃなくて。生まれ変わるってのは、死ぬ前提じゃないかよ」
「…そうだな。ハハ」
少し力のない笑い。でも僕は、急に南を近くに感じた。
「南さ、僕らは友達?」
「一緒に創作してくれるやつをほかに何と呼ぶ?」
照れくさいと同時に、なぜか安心する自分がいた。
「…じゃあさ、別に…」
「ん?」
「べ、別にさ、生まれ変わらなくても、友達でいいよ」
うれしそうに僕の背中をバンバン叩く南。件の2匹のカージナルテトラも僕らを見てか、体を震わせて絡み合って…?
「…てか南、あれ夫婦だぞ」
「今時はどっちもアリだ」
「ねーよ!ったく雑なんだから」
もうしばらく、この乱暴者の友達に付き合ってやってもいいと思った。
最初のコメントを投稿しよう!