Waiting on a Friend

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南は人との距離感がバグっている。転校生なのに最初から馴れ馴れしい。最初の被害は放課後、僕がiPadで楽譜を書いている時。 「お前音楽作ってるんだって?今度俺にも作ってよ」 「なんだよいきなり」 長身でマッチョで無駄に明るい性格。陰キャでヲタの僕とは接点がない。はずだ。 「おお!センスあるじゃん」 「うわやめ、ジャック外すな!」 なんてガサツな野郎だ… 「俺さ、小説書いてんだ。眠りSTARのリンク送るからスマホ貸せ」 「いや興味な…うわああ、勝手にフルフルすんなあ!」 こんな調子で僕は一方的に南の精神攻撃を受けている。もちろん断じて友達ではない。 「よう!今度の新作は雪山が舞台なんだ」 「そうですか」 僕は無関心を装ったが、実は南の小説にハマっていた。粗野なコイツが書いたとは思えない、細やかな心情描写。 「マジで主題歌を作ってほしくてよ」 本人はアレだが作品はいいからな… 「歌詞は南が書く?」 「もちろん!楽しみだなあ」 主題歌付きの南の新作は好評を博したが、その後南は体調を崩し入院する。ま、友達でなくても見舞いくらいはイイか。 「おお!来てくれたのか」 「一応共作者だし」 「驚かせたけど来週には退院だ。でも病室であの曲を聴くと力が出るよ。俺の希望なんだ」 「よかったよ」 何とは無しにロビーの大水槽を眺める。かなりの数のカージナルテトラが大きなプレコに追われ、整った赤青の群れを作っていた。 「魚はさ、個性ってあるのかな」 「哲学か?」 「違うわ。でも寿命が短いし繁殖雑だし」 「そうだな」 「なら一匹ずつに個性とか人格はなくて、種ごとに人格…いや『魚種格』があるだけかな?とか」 「変わってんなお前」 「はい南には言われたくないやつ」 「でも俺が先頭の魚だとして、後ろの魚を守ってるだろ?それがお前だよ」 「はい頼んでませーん」 「そいつらは、生まれ変わっても友達だと思うんだよな」 「はい?何言って?」 「魚にも相性はあるんだよ」 「そこじゃなくて。生まれ変わるってのは、死ぬ前提じゃないかよ」 「…そうだな。ハハ」 少し力のない笑い。でも僕は、急に南を近くに感じた。 「南さ、僕らは友達?」 「一緒に創作してくれるやつをほかに何と呼ぶ?」 照れくさいと同時に、なぜか安心する自分がいた。 「…じゃあさ、別に…」 「ん?」 「べ、別にさ、生まれ変わらなくても、友達でいいよ」 うれしそうに僕の背中をバンバン叩く南。件の2匹のカージナルテトラも僕らを見てか、体を震わせて絡み合って…? 「…てか南、あれ夫婦だぞ」 「今時はどっちもアリだ」 「ねーよ!ったく雑なんだから」 もうしばらく、この乱暴者の友達に付き合ってやってもいいと思った。
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