常務秘書、野々村の秘密

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「……アラビア文字って美しいわね、筆で書いたら面白そう」  テレビの画面を指差しながら母が言った。 「君はさすが書家だね、どの国の文字もアートにしてしまう」 「書家の性ね」  父の言葉に母が笑った。 「……しかしアラビア語って本当に難しいね。一言も分からないし、文字もどう書いているのかな?」 「そうね、独特よね」  何気なく両親の会話を聞いていた勝也は不思議に思った。  ……お父さんとお母さんは何を言っているんだろう。  勝也にはドキュメンタリー番組の中でインタビューを受けるアラブ人のおじさんが何を言っているのか分かるし、おじさんの背後に見える看板に書かれた文字も読めるし意味も理解できる。  あれ?と思った。勝也はどの国の人が話していても、ネットで日本語以外の文字を見ても普通に理解していたし、みんなそうだと思っていた。  ……もしかして、違うの?  勝也は自室に戻りノートパソコンを立ち上げ最近見たロシアの歴史的建造物をめぐるホームページを表示した。美しい建物の写真とキリル文字で書かれた文章が並ぶ。そのままパソコンを持ってリビングに戻る。
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