常務秘書、野々村の秘密

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「うん、英語勉強しようかな……」  そうは言ってみたが、ネイティブの日本語と同じレベルで多言語を理解していたと気付いてしまった勝也には語学を学ぶ意味はない。まるで呼吸をするように意識せずともあらゆる言語が理解できる能力。誰もが欲するはずだが、勝也は違った。  ぼくは、他の人と違うんだ。なぜ、自分にはこんな能力があるのだろう、別に望んだわけではないのに……もしかして三年前の “あの事” が関係あるのかな……。  勝也の心の片隅にはいつも “あの事……五日間の行方不明事件” が存在する。それゆえに生じる疎外感。それがますます強くなり、それは27才の今でも続いている。  二つ目の秘密。  人ではない何かが見えること。  勝也が高校二年生の時、京都に住む祖父が亡くなった。急な危篤の知らせを受け、両親、兄と共に祖父の入院する病院へ、イギリス在住の姉は急遽帰国の途に。  祖父は身体が大きく頑健な人で、僧侶としても若い頃から厳しい修行をいくつも経て大阿闍梨にまでなった。
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