常務秘書、野々村の秘密

　……何だったんだ、今のは？
　祖父の死が悲しすぎて、幻覚を見たのだろうか？　
　……痛っ。
　手首に痛みを感じた。先程ヒタキが触れかけたあたりだ。目を向けると鋭い爪で引っ掻かれたような痕が三本ついており、うっすらと血が滲んでいた。
「なに、この傷」
　あの子供は幻覚じゃなかった？じゃあ何？人間以外の者？まさか、本当に……天狗？
　7才の時、自分は本当に神隠しに遇い、再び連れ去ろうとする “何か” からじいちゃんがずっと護ってくれていたのだろうか。じいちゃんが亡くなってその効力が弱まりまた “何か” が自分の前に現れたのだろうか……。

　祖父の葬儀を終え、東京に戻ったあとも時々、身辺にヒタキと名乗ったあの黒い子供の姿を見る事があった。勝也にしか見えないらしいそれは朝の通学途中、生徒の中に混じっていたり、駅前の雑踏の中を歩いている時にふと気付くと前を歩いていたり、自宅の庭の隅に立っていたりする。