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再会、そして青春の思い出
佐藤君は相変わらず気さくで、話しやすかった。聞けば起業して、社長をしていると言う。
「えっすごいじゃん」
「いやぁ、アパレルは今どこも厳しいけどね。通販に力を入れて、なんとかやってるよ」
「へぇ……」
きっと収入もいいんだろうな、と思う。よくよく見ると、スーツ上質な生地を使っている。
彼がグラウンドで大きな声を出して頑張っていた姿を、よく覚えている。吹奏楽部はパートごとに練習することも多く、私は他のフルート担当の子たちと水飲み場の近くにいた。その時声をかけることはなかったけど、近くを通ったときは「がんばってるね」という感じでアイコンタクトをとっていた。
「付き合ってるの?」と聞かれたこともあった。「佐藤君とはそんなんじゃないよ」と否定していたけど正直、恋心、みたいなものはあったと思う。
すっかり忘れていたものだと思っていたけれど、こうして話が盛り上がるとその気持ちがよみがえってくる気配がした。
彼がまじまじと私を見ている。
「何よ、じろじろ見て」
「野田も大人になったなぁ」
「なによそれ、褒めてるの?」
「綺麗になった、って思ったよ」
「あらそう? 昔はそういうこと言わなかったのに」
「……俺も大人になったんだよ」
いつの間にか、彼が私を見る目が熱を帯びていた。
(ちょっと、これはいい雰囲気なのではないかしら)そう思った時。
「佐藤ー! ナンパしてんじゃねえぞー」
男性陣のテーブルから野次がとんできた。
「ナンパじゃねぇよ!」と笑いながら返し、「また後で」と佐藤君は私の肩にポンと手を置いて席に戻る。
そして、あっと言う間に輪に溶け込んでいった。触れられた肩に、彼の体温が残った。
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