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ロビーにて
同窓会が終わって、ホテルのロビーはごったがえしていた。そのまま帰る人は少数で、二次会に移動しようという話が出ている。
この後、うちのクラスも別な店に行くはずだった、けれど。
「浩子!」
声に顔を向けると、佐藤君が片手を上げていた。そのまま人混みの間をこっちに向かってくる。
学生の頃は呼び捨てにされたことなんてなかったのに。
「よかった、あのさ、この後二人で抜けないか」
彼はすっかりお酒臭くなっていた。あのテーブルで一気飲みまがいのことをやっているのを、私は上田さんと見ていた。
彼女の話を聞かなかったら、私はそのまま彼と抜けて、二人で過ごす未来もあったかもしれない。けれど。
「ごめんね、一緒にはいけないや」
「え」
「佐藤君、話聞いたよ。
アパレル会社の社長だったのはホント。でもとっくにつぶれてて、今は借金がある身。それなのにレンタルしたスーツと車で会社社長に見せかけて、女性を誘って、二人きりになったら暴力ふるってるって」
ぴくり、と彼の頬が動いた。
「はぁ、何言ってんの?」
「教えてくれた人がいたの。あなたの元カノを知ってるからって。その人、怪我でいまだに入院して、今ご両親から訴えられてるんでしょ。
ねぇ、なんでそんなことするようになったの。昔はそんなんじゃなかったのに」
私は信じられない気持ちで佐藤君を見つめた。
さっきまでは、新しい扉が開くような気がしていた。
「……関係ないだろ」
私はため息をついた。この反応は、図星なんだろう。
「とにかく私は行かない。さよなら」
「おい!」となおも声をかけられそうになったけれど、私は素早くフロント側に逃げた。彼は追いかけてきそうだったけれど、ホテルスタッフがこちらに注目したのに気付き、顔をゆがめるとその場を立ち去った。
後ろ姿から、チッと舌打ちしたのが聞こえた。
「野田さん!」
上野さんが駆けて来た。
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