さようならはしない

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「あああっ、鶯、読まないで~!」 「読みます」  鶯はきっぱり答えた。  そして広げてじっと(ふみ)を読み始める。  萌黄はあまりの恥ずかしさに「ああ……」と両手で顔を覆った。  でも鶯のほうは読み進めるにつれて、うるっ……と瞳を(うる)ませていく。うるうる瞳を潤ませて「はあっ」と満足のため息をつくと、いそいそと文を懐にしまった。 「これは私宛なので私が持っていてもいいですよね。そちらにある文箱も見せてください」 「鶯、だめっ。それだけはっ……!」 「ははうえ、これのこと?」  紫紺はどんな時も鶯の味方である。  鶯は紫紺から文箱を受け取り、自分宛の(ふみ)の束をとりだすといそいそ懐にしまった。  萌黄は天上を仰いで諦めていた。相手は天妃と天の御子、止めることは不可能だ。でもせめてとお願いする。 「……笑わないでね?」 「ふふふ、誰が笑うものですか。ひとつひとつ大切に読ませてもらいます。お返事も書きますね」 「えっ、お返事をくれるの?」 「言ったじゃないですか、いつも見守っていますよと。だから寂しがる必要はありませんからね」  天上と地上に分かたれたとしても、心はすぐ側にいると鶯は伝えた。  萌黄はパァッと顔を明るくして大きく頷く。 「うん、楽しみにしてる」 「はい、楽しみにしていなさい」  鶯も優しく目を細めて頷いた。  こうして楽しいひと時がすぎていく。でもお別れの時間もやってきていた。 「では、そろそろ帰りましょう。萌黄、今日はありがとうございました」 「私こそ会いに来てくれてありがとう。またね」 「はい、また」  また会いましょう。それは確かな約束。  天上と地上に分かたれたけれど永遠の別れではない。また二人は会えるのだ。だからさようならはしない。  こうして鶯たちは天上へと帰るのだった。
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