後宮の雀はおしゃべりがお上手で

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「鶯、こっちへ」 「はい」  鶯が唐衣(からぎぬ)の長い裾を捌いて隣に腰を降ろす。  乱れた裾を女官が手早く直して下がった位置で控える。  鶯は黒緋の背後に控えている女官たちを見た。手には銚子(ちょうし)を持っている。ただ(はい)を満たしていただけだと分かるが、それでも……。 「もう下がっていいですよ。あとは私がします」  鶯がそう言うと、女官たちは「(かしこ)まりました」と両手をついて一礼して下がっていった。  すると側近女官が銚子の乗った台盤(だいばん)を鶯の前においた。  こうしてここにいる女官はすべて離れた位置で控える。  黒緋も彼女たちを気にする様子はなく、鶯とともに月と酒を楽しもうとしている。そんな様子に鶯は内心安堵するも、そんなことに安堵している自分が少しだけ情けなくなった。  でもそんなことは億尾にもださずに鶯は黒緋に微笑む。今、黒緋に愛されているのは鶯一人。それだけは間違いないのだ。 「二人はどうだった」 「すぐに眠っていきましたよ。久しぶりの地上ではしゃいでいましたから疲れたのでしょう」 「そうだな」  黒緋も頷いて苦笑した。  紫紺と青藍のはしゃぎっぷりを思い出したのだ。  黒緋の穏やかな様子に鶯は目を細める。  自分が二人の息子を愛しているように、黒緋も愛してくれていることが嬉しかった。  歴代の天帝の中には天妃だけでなく実子すら遠ざけた者がいたくらいなのだから。天妃との子作りは天帝にとって義務。だからこそ義務だけでなく愛してくれていることが嬉しいのだ。
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