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後宮の雀
後宮の雀が噂話を好むのは天上も地上も同じである。
天上にある後宮の一室で女官たちが見聞きした出来事をおもしろおかしく囁きあっていた。
最近の後宮で一番の話題といえば天上に帰ってきた天妃・鶯についてである。
「天帝はすっかり天妃様に夢中ね」
「それはそうよ。他にいらした妻をすべて離縁して、天妃様をわざわざ地上に探しに行ったのよ?」
「はあ〜、うっとりしちゃうわ。しかも可愛い御子様が二人もいらっしゃるのよ」
「でもさ、天帝がそんなふうに天妃様を愛されるようになるなんて想像もしなかったわよね」
「わかる。天妃様が後宮に入ったばかりの頃なんて悲惨だったわよね〜。天帝は一度も天妃様のところに渡らないばかりか、すぐに新しい四人目の妻を娶られたのよ。さすがにあれはお可哀想だったわ」
「そうそう。天妃様は奥から出てこなくなるし」
「そのおかげ妻室様方の寵愛合戦になっちゃって、後宮は雰囲気最悪だったものね」
「そういえば知ってる? 離縁された三人目の元妻室様が、自分が離縁されたのは天妃様のせいだって恨んでるそうよ」
「まあ怖い。そんなことが?」
「なんだか意外。三人目の妻室様はおっとりした方だったのに、人は見かけによらないのね」
「あ、それを言うなら天妃様も地上に忘れられない御方がいるそうよ」
「え、なにそれっ。天帝がいらっしゃるのに?」
「それがね、どうも天帝もご存知らしいわ。天妃様の御心が地上の御方に向いてるんじゃないかって、天帝が嫉妬しているとかなんとか」
「ええ〜、意外。天妃様は天帝に夢中なんだと思ってたわ。それなのに地上にお慕いする御方がいらっしゃるなんて」
「でもそんなこと天帝がお許しになるのかしら。もしそれが本当なら地上には天罰が下ってるはずよ?」
「嫉妬で天罰を下すなんて、はげしい〜〜っ!」
きゃ〜! と雀たちが歓声をあげた。
賑やかな雀たちのおしゃべり。
人の口に戸は立てられない。それが後宮の下級女官たちならなおさらだ。
離寛は苦笑する。
たまたま近くを通りかかって、たまたま聞こえてきた噂話。
人の噂話を止めることなど不可能なので躍起になって止めるつもりもない。この噂話というのはなかなか侮れないものでもあるし、なにより頭を使って利用すればなかなか便利なものなのである。
だが天帝と天妃の噂は軽率にするものではない。このことが知られればここにいる下級女官たちは後宮を追放されるだろう。
どうしたものかと離寛が頭を悩ませると、たまたま上級女官が通りかかった。
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