034:いつもの場所で(リアムと慶一朗)

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 ハーバーブリッジを見下ろせる公園のベンチに腰を下ろし、眼下を自宅に向けて走っているらしい車やその向こうの暗さを増してきた水面を走るフェリーを見下ろしていると、背後から静かな足音が聞こえ、年がら年中半袖を着ている素肌が暖かな何かに包まれたことに気付く。 「Hiya, Mein Prinz, 待たせたな」 「……大丈夫だ」  あなたとの待ち合わせもデートの時間だからと笑いながら腕をそっと撫でると、頬に濡れた感触を覚えた後に隣に痩躯が座り込んでくる。  お待たせと眼鏡の下で目を細め、手にしていた袋を差し出しつつリアムの横顔を覗き込んできたのは、今朝ぶりの再会を果たした慶一朗で、袋を受け取って中身を確かめると、マーサのパンと比べられるか分からないが職場近くに新しいベーカリーが出来ていたから買ってきたと教えられ、細い肩に懐くように頭を預けると同じ男とは思えない綺麗な手がそっとハニーブロンドを抱き寄せてくれる。  自宅以外でのスキンシップを良しとしない羞恥心の強い慶一朗がこうして抱き寄せてくれるようになった原因を思えば胸が痛むが、それでもそれを乗り越え過去のものにした今は素直に嬉しくて、腰に腕を回すと拒絶では無い思いから身体を寄せてくる。  海へと向けられているベンチに二人で座っていると、二人と同じように景色を楽しみに来た人達や、自宅へと帰るために公園から出て行く人達が背後を通り過ぎていく。
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