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閑話 それは不思議な話
令和の日本に住んでいて、普段は『妾』なんて余り縁がないのではないかと思うのだけれど、『けーちゃん』との関係を考える時にはどうしても避けては通れない単語だ。
そんな時、けーちゃんと自分のルーツを再び考えさせられる不思議な事があった。
JRの沿線というのは本当に西から東、南から北へと長く延ばされ日本各地を網羅しているわけで。
其の日、わたしは珍しく遠出を、新幹線を使わずに移動していた。
近江の目的へ向かう乗り換え駅。
其処に着くまでに20分という時だったので、2人座りのシートの通路側に座り、直ぐに降りれるようにして電話を見ていたいたのだけれど、古都の駅に着いた時に、人が目の前に立つ気配がした。
窓際へ移動してほしいのかと考えるが、他に席は空いている。
怪訝に思うも、窓際に腰をずらして電話を見続ける。
が、横から刺さるほどの視線を感じた。
『変な人かも、、』
関わるのを避けて、続き電話で検索した内容に注視する。と、目のにチョコレートが出されて驚いた。
隣を見ると、眼鏡の紳士が目を見張りながらも、チョコレートを無言でこちらへ出しているのだ。
『声がだせない?手が使えない?』
もしかすれば、好意でチョコレートをくれているのかもしれないし、手が不自由で包を空けて欲しいのかもしれない。
とにかく、声が出ない人は耳が聞こえない可能性もあるので、ジェスチャーで両手を合わせて、チョコレートを手にする。
依然として紳士は喋らず、驚愕の顔を向けているわけで、わたしは包を空けてチョコレートを紳士に返してみた。
すると、やはり無言で紳士はチョコレートを食べるように、仕草で伝えてきた。
もしも此処が異世界なら、チョコレートは媚薬だったりするし、最近大麻グミなるものを老人が通行人に配るというニュースもあった。
『見知らぬ人からのチョコレートは危険!!』
そう思いつつも紳士の気迫に負けたわたしは、意を決して、出されたチョコレートを口に放り込んだ。どうだ?体に異変が出るか?と思いきや、
途端に、紳士が声を出した。
「驚いた、、、、あなた、、あー、美人です、ね。」
????
取ってつけたようなセリフに、新手のナンパかとも思うが、如何せんもう半世紀を生きている。
しかも、朝からの移動でスッピン。ナンパなんて有り得ない。
しかも、そう言う紳士が、わたしの顔を両手で触らん勢いなのだ。
見れば、チョコレートを出してきた駅弁ビニールは、明らかに動揺が伺えるぐらいに、駅弁が乱雑に飛び出している。
「、、、ありがとうございます。あの、お弁当、落ちそうになっていますよ。大丈夫ですか?」
相変わらず、こちらの顔を見つめる紳士に愛想笑いをして、はみ出している駅弁を示した。にも関わらず、紳士は電話を出してきた!!
『いや、電話の交換とかせんよ!』
そんな事を瞬時に考えて、降りる駅に未だ着かないかと車窓を伺う。
「これ!わたしの奥さんの20年前です!!」
は?!だ。
何故、見知らぬ人からチョコレートを渡された挙句、細君の写真を見せられるのか?訳がわからないが、無理矢理目の前に突き出された電話を覗く。
「!!!!」
驚いた!そこには若い頃の母の写真が。
いや、厳密に言えば、母に瓜二つの紳士の細君の若い頃が映っていたのだ。
世の中には3人同じ顔があると言うが、今迄そんな経験をしてきた事は無いわたし。電話の写真に釘付けになった。
母には2人の姉がいたけれど、姉妹でさえこんなに似る事はなかった。もう双子レベル。いや、ドッペルゲンガーだ!!
「あなたは、奥さんの若い頃にそっくりで、、言葉が、、でません、、」
って、顔を触ろうとしないでくれ!!気迫が怖い!!
「あ、のう、奥様はその、今は?」
もしかしたらもう永眠しているかもしれないので、手を躱しつつ聞くと、再び紳士は電話を操作する。
『て、写真とかとらせないし!!』
などと警戒するが、紳士は再度電話の画面を見せてくる。
「今の奥さんです!」
『て、生きてるんかい!!』
いちいちヤヤコシイ紳士に若干呆れながら、もう一度電話を覗く。
『おーーーーーーーーーーー!』
見事に60代の母が映っていたわけだ。マジか。
「あの、失礼ですが何方の方ですか?」
もうこうなれば遠慮なく聞くしかないので、紳士の相変わらず驚愕の表情を無視して、話を聴く事にした。
眼鏡の紳士は60過ぎ。奥さんは同い年の中学の同級生で、結婚。育ちも生まれも美濃だとのこと。
名刺をいただき、名前も聞いた。
とにかく電車に入って驚いたそうだ。若かりし頃の奥さんが座っていると思ったらしい。
初めは幻影かと思って、チョコレートを出したら、幻影ではないから、チョコレートが開けられたので現実の人間だと考えたわけだ。
ちなみに、わたしは自分が母に顔が似ていると思った事は無い。しかし、紳士の写真には母そのものと言える人物が居る。
そして紳士は、わたしを其の人物と全く一緒だというのだ。
その証拠か?紳士は降りる間際に、わたしにお金を渡してきた程だ。若い頃の奥さんに会わせてくれて有難とうといって。
降りた駅で、改めて検索していた電話の画面を見る。
たまたま、今から行く場所の地盤が特殊で、日本でも2箇所ほどしか無く天然記念物になっているという記事。
其の他の箇所になるのが、母の父、祖父の一族が氏子頭をしていて、墓を置いていた場所だった。
その記事を読んでいると、突然目の前に紳士が立ったというわけなのだ。
「不思議な話だと思うよね。そもそも、うちのお祖父いは1人っ子の当主だがら、母さんにあんなに似た血筋はいないし。」
帰ってきた時、わたしは妹達に、この日の不思議話をした。お土産のフィナンシェを食べながら、妹は有る事に気が付く。
「ねぇ、お祖父いは妾さんいたし、その上の大祖父いも何人もいたよね。美濃なら地理的にも遠くないし、先祖の商いで暖簾分けしている先に、妾で血を残してる、かもじゃない?」
ううう、、、そうかも、、、
それに『忌み子』の可能性もある。父方の島でもあるのだ、双子を間引く習慣が。
近親での婚姻を続けると、血が濃くなる弊害は予想できる。もしかすれば、大祖父の時代に、間引く意味あいで外に出された子がいてもおかしくもない。
島では消されるのだが、商いをする一族にとって人は、材であり財。一族から出して処分扱いにする考えがある。
「大祖父いのお妾さんの子孫か、間引きの結果から生まれた不可思議な出来事かもしれないってことか、、」
もしかすれば、けーちゃんの今の姿形が、わたしの90歳の姿形なのかもしれないと思った出来事。
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