紙かぶり

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紙かぶり

あるところに過酷な労働を強いられる、いわゆるブラックな会社に勤めている女性がいました。彼女は幼い頃に親を無くし、ホワイトな会社を選べず、そこで働くしかなかったのです。 転職したいと思いつつも有益な資格もなく、新たな道を進むチャンスはありませんでした。今までは贅沢せず質素に暮らしていました。 彼女は会社の意地悪な課長にいじめられ、その美しい顔に書類を投げつけられていました。いつも紙にまみれていたので、皆からは紙子(かみこ)と呼ばれていました。 そんな冬の日のこと、課長が出張に行くと言いました。なんと鞄持ちとして紙子も一緒に行くように伝えられました。課長は会社の経費で先方にお土産を手配し、実際には手渡さずに自宅に持ち帰るなかなかの猛者です。 さらに課長は書類が大好きで出張の際にはたくさんの紙の資料を持っていきます。いつもならば、資料は課長と同行する社員が持って行きます。ところが、今回はインフルエンザが流行っていて紙子以外に出張できる人がいませんでした。 そこで、紙子に出番が回ってきたのです。意地悪な課長と出張に行くのは気が引けますが、初めての出張で紙子は少しワクワクしていました。 紙子は普段着で出勤しているため、特にスーツ、出張用鞄、ビジネスシューズを持っていませんでした。そもそも給料が少なく、急な出費に対応ができません。  「これでは出張に行けないわ。どうしょう?」
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