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高峰は、高峰 峻を、くれてやろうと思う。
自分の命を賭けて、ぶら下がっている平原のことをなんとかする。近くまで行って、自分の身体にくくりつけて背負う。
途中で二人ともだめになっても、高峰 峻はもともと平原にあげちゃったものだから仕方がない。平原も”もらっちゃおかな”と言った。平原はこの会話を忘れているかもしれないが、高峰の中ではこれは合意だ。
ザイルを切ろうという取り決めについては、きっぱり反故にする。平原は、『えっ?』と言って驚くだろう。でも、あんなもの信じるほうがわるい。これこそが”とはいえ”だ。平原はもう少し人間界の風習に馴染んでもいい。
すでに死んでいるかもしれない?そんなはずはない、しぶとい人だから絶対大丈夫さ。
きっとまたオーロラを見て、電磁波のくせになかなかやるとつぶやくはずだ。
高峰は息を大きく吐いて、絶壁を下へと降り始めた。眼下はるか彼方に待ち受けるあの岩に、平原が落ちていっていいわけがないのだ。
高峰は、この山にも、世間にも、平原をくれてやるつもりはない。
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