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◇ ◇ ◇
「あー、やっとエアコン効いて来た。今日も寒いよなあ」
しばらく前に、二人で外出から帰ってきた隼人の部屋。
つい両手を擦り合わせている己に気付き、慌てて下ろす。
「ねぇ、隼人さん」
唯に呼ばれて何気なく振り向いた隼人は、一瞬息が止まるかと思った。
「見てみて~」
「なっ」
楽しそうな彼女が視界に入るなり思わず咽せたような状態で言葉に詰まる。
ブラウスの前ボタンを外して、前を大きくはだけている恋人のあらぬ姿に。
「ゆ、唯ちゃ、──なんで脱いでんの!?」
「え、これ買ったから見せようと思って」
下着、か。淡いピンクの、縁に繊細な花のモチーフが並んだ胸の。
「……可愛く、ないですか?」
「いや、そういうことじゃなくて──」
言い掛けたものの、見るからにしゅんとした姿に隼人は慌てて唯をフォローする。
「あー、うん、可愛いよ。可愛い、凄く」
ほっとしたように頬を緩めた彼女が愛おしい。のではある、が。
「なんで俺に見せようと思ったの?」
「え? 隼人さんしかいないでしょ?」
疑問を呈した隼人に、小首を傾げる恋人。
「他に誰に見せるんですか?」
唯はきょとんとして、本当に理解できない様子で訊き返して来た。
「友達の女の子とかは?」
「友達……、は私あんまりいませんけど、友達の前で服なんか脱がないでしょう? ──あ、絵麻は二人で買いに行ったときに見てます。選んでもらったんですよ」
園部 絵麻は唯の大学時代からの友人だ。
贔屓目に見ても交友関係の広くない彼女は、一緒に出掛けるのは隼人か絵麻くらいしかいないといっても過言ではない。
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