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夏のモールス信号
「南…」
手に収まるほど小さな鳥だったけれど、今にも遥か彼方に飛んでいきそうだった。
***
電車が体を揺さぶる。ガタンゴトン…という一定のリズムを刻みながら、ゆっくり走っていた。
手鏡を覗きながら、髪型を整え、襟を正す。初めての出勤だった。
緊張して右往左往していると、一人の女性が電車に乗ってきた。小柄ながら厳かな雰囲気を醸し出していて、龍慈の前に腰掛けて来た。怪訝に思っていると、不意に歌い始めたのだ。
「って」
モールス信号だと気づいた。何かを伝えようとしているのか?
「…さ?」
ドアが開く音で我に返った。
「xx駅だ、降りないと」
なんだか、とても惹かれてしまった。
***
やはり新入りなので雑用だった。
朝7時、起床を告げるアラームがけたたましく鳴り響いた。そそくさと準備を済ませ、外へ出た。
改札口を超えて、ホームの椅子に座った。電車が向かってくる。
「え?」
昨日の女性が居たのであった。
変わらず口ずさんでいて、やはりモールス信号になっていた。
「い」
繋げてみると、「さ、い」 まだまだ分かりそうにない。
***
来る日も来る日もその女性は龍慈の前に座って口ずさんだ。何だか、文通をしている気分だった。一方的にだが…
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