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「省吾さん、そういう格好も似合いますね。」
「お世辞はいらない。」
「ほんとですって。」
「はぁ、会社の奴らに色々問いただされそうだ。」
御手洗はぼやきながら、僕の運転する車の助っ席で窓の外を眺めていた。
「省吾さんは、スーツ着ないんですか?」
「ああ。肩が凝る。うちの会社は服装は自由だからな。」
僕の家に泊まった御手洗は、着替えを持っていなかった。
彼は同じ服で出勤すると言い張ったが、僕が自分のスーツを半ば押し付ける形で着させた。
しかし、一つ誤算があった。
それは想像以上に似合っていること。
ただでさえ、女子社員から人気の高い御手洗なのに、この姿を見せたらますます人気になってしまう。
できることなら、僕だけが御手洗のスーツ姿を見ていたかった。
「昨日みたいなカジュアルな格好も似合ってましたけど、今日のスーツ姿も格好いいです。あとで写真撮ってもいいですか?」
「ダメだ。」
「ケチ。」
「んはっ、光輝言うようになったな。」
「だって、省吾さんのペースに流されてたら口説けませんから。」
「ふーん。」
御手洗が何を考えているのか分からない。
少しは僕のことを意識してくれているのだろうか。
それとも、ただの暇つぶしなのだろうか。
その時、信号が赤になった。
カシャ
「お前、今、撮っただろ!」
「本当は全身ショットが撮りたかったけど、横顔で我慢します。」
「おい、聞いてるのか?」
「はい。待ち受けにしよっと。」
「光輝、今すぐ消さないとキスするぞ。」
「残念、運転中です。それに、キスなら大歓迎なので。」
「くそっ/」
僕は照れている御手洗の横顔をこっそり覗き見た。
すると、信号も青に変わった。
僕は宝物が増えた喜びを噛み締めながら、アクセルを踏んだ。
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