初恋が動き出す

1/13
前へ
/63ページ
次へ

初恋が動き出す

あの出会いから10年後、僕はやっとあなたの隣に立てる人間になった。 遂に、この日が来た。 「本日付で、本社に配属になりました南雲光輝と申します。よろしくお願い致します。」 僕は背筋を伸ばし、ハッキリとした口調で挨拶した。 空気だった頃の僕はもう居ない。 僕に向けた歓迎の拍手と共に、好意的に注がれる周りの視線を感じたが、肝心な人は未だに僕を見てはいなかった。 「御手洗くん、南雲くんに色々教えてあげて。って聞いてる?」 上司の桜井が御手洗に言った。 「俺、今、抱えてる案件で手一杯なんですけど。」 「そんなこと言わずに、ね。」 桜井は半ば強引に僕の教育係を御手洗に押し付けた。 「……はい、分かりました。」 御手洗は、気怠けに立ち上がると、相変わらず鋭い目付きで僕の元へとやってきた。 膨大な仕事をこなすエースの御手洗にとって、俺の存在は厄介者なのだろう。 「御手洗だ。」 「南雲です。ご指導とご鞭撻のほどよろしくお願い致します。」 どんな理由でもいい。 彼の近くに居られるのなら。 雑用でも何でも彼が望むことなら何でもする。 「南雲くんみたいな優秀な人材に、俺が教えることはないんだけど。」 「そんな事ないです。御手洗先輩から教わりたいです。お願いします。」 僕は彼の目を見て訴えた。
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加