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序章
拝啓。お父様、お母様。ついでにお兄様方へ。
突然の手紙を差し上げる非礼をどうかお許しください。私が鬼無国を出立し、早くも半年が経ちます。その間、一度たりとも手紙を出さなかったのには理由があるのです。何度も筆をとり、文字を認めましたがこれをお二人(とお兄様方も)へ送っていいものかと迷い、悩んだ末、送らないことにしました。
けれど、悩みはいつまで経っても尽きることなく、日に日に酷くなり、私の心を蝕んでいきます。このままでは私の心が壊れてしまうと危惧し、手紙という形でみなさまへ届けようと考えました。
みなさまは嫁入りが決まり、はしゃぐ私に異国に嫁ぐということはどれほど過酷なのかを説いていましたが、ええ、全くその通りでございました。春は花が咲き綻び、夏は満天の夜空が広がり、秋は色づく紅葉と夕日が混じり、冬は真っ白な雪に包まれた、四季が織りなす風景が美しい鬼無とは違い、ヴィルドール王国は一年を眩い太陽に包まれております。曇り空が珍しいほど、夏真っ盛りです。この国の方が言うには春や冬も訪れるそうですがそうは思えません。
食事に関しましても鬼無とは違いこちらは味が濃く、お水をたくさん飲まなければなりません。お召しものも腰を細くするためにコルセットという道具を使うため、呼吸がしづらいです。
みなさまが言う通り、季節も文化も違う国に嫁ぐのは大変です。
その中でも私が悩んでいることが美の観念についてです。美人の条件というものは国によって違います。鬼無では、肌の色が白く、顔も体もふくよかで小柄、癖のない艷やかな黒髪、切れ長の目が美しいとされていますね。
上記の条件に当てはまる私は、自分の容姿がとてつもなく優れていると信じていたし、誇りに思っておりました。
けれど、この国では白い肌は病人の色であり、小麦色が健康的で好ましいようです。体は引き締まり、背も高く、髪は明るく、目はぱっちりとした二重が美しいそうです。
つまるところ、私は醜女に映るようです。
夫となるお方には抱く気にすらならないと言われました。どんなに私が仲良くなるため擦り寄ろうとしても、彼は私を愛してくださりません。目に映るのも不愉快だと、日々暴言を重ねて、あまつさえ私を死んだことにしました。
ねえ、お父様。お母様。あとお兄様方。この婚姻は私のわがままであることは重々承知しております。その上で私は国の代表者として、大義を背負って輿入れいたしました。両国を繋ぐ——
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