シヴィル領

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「ここがシヴィル領……」  ただ、城下町と違いシヴィル領は閑散としている点だけ不満だった。暮らす民は多いが見える風景は色鮮やかな土の色よりも緑芽吹く自然の方が多い。  その緑萌える風景の中、もっとも目を引く城がこれからアランと暮らす春子の家だ。ジェラルドとレオナールと暮らしていた白亜の城と比べると面積はおよそ四分の一程度。鬼無(そこく)の屋敷より小さかった。  外観は赤煉瓦で積み立てられているので豪華な印象を受ける。別に家の広さは大きくても小さくても春子はきにしない。隙間風や雨漏りがしなければ、ボロ小屋にだって住んでもいい。 (ぱーっと買い物したかったけれど、私は死んだことになっているし出かけるのは無理そうだわ)  がくりと肩を落とすとアランが大きな木箱を抱えて近付いてきた。唐櫃(からびつ)と呼ばれる朱塗りの木箱の中には衣装などが仕舞われている。他にも嫁入り道具として鏡台やら装飾品、遊具なども持参したが馬車に乗せることができないため置いてきた。後で送ってもらう手筈になっている。 「疲れましたか?」  気遣わしげな眼差しを向けられ、春子は頷いた。 「少し……」 「城に部屋を用意してあるので今日はお休みしてはどうですか? 食事は部屋まで持って行かせましょう」 「いいえ、お腹は空いていないので……。今日はもう休ませていただいてもよろしいでしょうか?」 「ええ、ここはあなたの家です。ご自由にしていただいて大丈夫ですよ」  自由、という言葉に春子は口角を持ち上げた。 (言質(げんち)はしかといただきました)  夫から自由にする許可が出た。  ならば、言われた通り自由にするべきだ。 「この城には私と姫以外にもう一人、暮らしています。ローレンスという男です。何かあれば彼に聞いてください」 「そのお方も武人ですの?」 「ローレンスは私の昔馴染です。この城の料理、掃除、庭の手入れを任せています」 「そうですか。そのお方への挨拶は明日でもよろしいですか?」  疲れてしまって、と言えばアランはすぐさま了承した。 「ではお部屋に案内しましょう」  春子もアランの後を追い、これから拠点となる城へと足を踏み入れた。
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