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そこまで書き終えると羽筆を置き、三枚の手紙を重ねて破る。ビリビリと耳障りな音が止めば、春子の手の内には細かな破片ができあがった。
こうすれば春子の手紙は誰にも読まれることはない。誰にも届かない。
ここに書き留めた想いは、春子の胸の中にだけ留まり続ける。
「鬼無には私の訃報が届いている頃……。これを出しても迷惑をかけてしまうわ。だって、私は死んでいるもの」
死んだはずの娘から手紙が届くわけがないのだ。春子は両手で顔を覆った。どれほど我慢をしようとも涙はとめどなく溢れてくる。不細工と罵られた挙げ句、鬼無に帰ることもできず、遠い異国で愛されず死ぬなんて、あの頃の自分は考えてすらいなかった。
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