あまりの衝撃に

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あまりの衝撃に

「ひ、ひ……」  ヴィルドールの昔話にでてくる老婆のような声はアランの喉から発せられている。野太く、勇ましい声が裏返っているのが妙に間抜けで春子は小さく笑いながら膝を折って、ドレスの端を持ち上げた。今日のドレスは、パールラベンダー。袖口が大きく、ゆったりとしているので動きやすくて気に入っている。 「おはようございます。アラン様」  アランは答えず、老婆の笑い声を発しながら震える指先で春子の肩付近を指さした。 「か、髪が……」  ああ、と春子は己の髪に触れる。昨夜、身代わりのために切り落としたので肩下までの長さだ。 「心機一転と申しましょうか……。思い切って、切ってみたのです」  似合いますか? と首を傾げるが(いや、面紗があるから分からないわ)と春子は自分でつっこんだ。ここにはあのうざったい元夫がいないのだし、そろそろ面紗を取ってもいいが春子の容貌はヴィルドール人にとっては醜いというのは前の城で、周囲の言動と視線からよく身に沁みている。心優しいアランに嫌われたくないので、少しでもまともに見れるよう面紗は着用し続けるつもりだ。 「似合っています。似合っていますが、なぜ……」  えっと、と口ごもる。仮面に隠されていない顔は悲痛に彩られており、春子はアランの心情を察した。  どうやら、春子が髪を切ったのは心を痛めたからだと思っているようだ。 (実は身代わりのためなんて口が裂けてもいえません!)  さすがの春子でも言っていいことと、悪いことの分別はつく。身代わりなんて単語、口に出せばなぜ? なに? と質問攻めにされる。そんな面倒なこと、絶対に嫌だ。 「暑くて、こうすれば涼しいと思って」  我ながら苦しい言い訳だと思うが、これ以外にうまい言い訳は浮かばない。  やはり、というべきかアランは眉間に皺を寄せて、なにやら考える仕草をした。 「確かにヴィルドールは暑いですもんね。あ、朝食にアイスを用意してありますよ」  急な話題転換に一瞬、戸惑う。  だが、アランの意識が髪から別のものへ変わるのなら、と春子は気付かないふりをすることにした。 「アイス?」  聞き慣れない単語に小首を傾げると、アランは両手で丸を作った。アイスという食べ物を表しているのだろうか。
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