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「えっーと、牛の乳を凍らせたお菓子です」
「氷菓子のことでしょうか?」
「確か氷を削って、蜂蜜をかけた食べ物ですよね」
アランはローレンスがかき集めてくれた資料の内容を思い出す。春夏秋冬が巡る鬼無国は、冬に用意した氷塊を洞窟に貯蔵し、それを加工したものを夏に食べるらしい。手間暇がかかるため、高価な氷菓子は高貴な身分の人間しか口にできないと記されていた。
ヴィルドールでも氷は高価だ。一年中を真夏に包まれたこの国では、冬国から氷を輸入しなければならない。整えられた貿易路も魔獣の襲来があるため、安全とは言えず、嗜好品である氷はほんの数キロが十数万の価値となる。
資産がある貴族か王族しか食べることができない、その氷を使って作られるアイスを提供できるのは、父王が姫のご機嫌取りをするべく手配したからだ。
ただでさえ、防衛費で国庫は火の車なのにと怒りたい気持ちもあるが、姫の機嫌を損ねるわけにはいかないため、またアランが身銭をきるわけではないので甘受しようとローレンスと相談して決めた。
「材料は違いますが冷たいので今日みたいな暑い日にもってこいですよ。姫もきっと気にいると思います」
「楽しみです。甘いものは好きなので」
「ならヴィルドール中のお菓子を用意して、お茶会でも開きますか?」
「それは楽しそうです。材料があれば、鬼無のお菓子も用意しますのに」
「手配します。もし無理なら代用の食材で作れるか試してみませんか?」
その後も会話の内容はお菓子だけ。春子もアランも髪の事は忘れたように、どこかぎこちない会話をしながら廊下を歩き、食堂へと向かうのだった。
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