あまりの衝撃に

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 (こよみ)はもう秋も終わりだというのに、ヴィルドールはうだるような熱気に包まれていた。まるで夏真っ盛りだ。燦々(さんさん)と輝く太陽は衰えることを知らず、気のせいかもしれないが春子が輿入れした夏よりも強い日差しで大地を照らしていた。  大きな硝子の向こうに浮かぶ太陽を見つめながら、春子は欠伸を噛みしめる。昨夜、城を抜け出し、朝に帰宅したせいか寝不足だ。眠たくて仕方がない。猛烈な眠気に負けぬよう抗うが、アランが去って、食堂に一人残されると負けてしまいそうになる。  うつらうつらと船を漕ぐ。重心がやや前のめりになる。机に顔が近づく度に意識が覚醒し、飛び起きるがそれも一瞬のこと。直ぐにまた船を漕ぎはじめる。 (……ぽかぽかと気持ちがいい。……お昼寝には最高だわ)  鬼無よりヴィルドールのほうが気温は高いが、湿度は低いため暑くても、じっとりと肌が汗ばむことがない。絹布で作られたドレスは肌触りが良く、鬼無の伝統衣装と比べると厚みも薄いため、風通りがいい。  煉瓦造りの屋敷がひんやりと冷たいのも相まって快適すぎる。 (アラン様はまだかしら)  ふわぁ、と大きく欠伸をする。大きく口を開くなど、はしたない行為だが今ここにいるのは春子一人。咎める者はいないのだから許して欲しい、と心の中で呟いた。 (……ああ、無理だわ。もう限界)  眠気は最高潮。抗うのも無理だと悟った春子は机に伏せると瞼を閉ざした。  扉の向こうから聞こえる喧騒を子守唄に、春子はまどろみに意識を沈めた。
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