あまりの衝撃に

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「寝ている」 「眠っておいでですね」  微かに開いた扉から食堂を覗き込んだアランとローレンスはこそこそと密やかに会話をする。  視線の先には見慣れた食堂が広がっており、来賓席には黒髪の人物が机に伏した体勢で眠っていた。長く重たい髪が広がり、顔は見えないが可愛らしいフリルがふんだんに使われたドレスからその人物が少女であることが伺い知れた。  ローレンスは失礼と思いつつ、その姿をじっくりと拝見した。噂では、姫は地面を擦る長い髪を結い上げているという。鬼無人としての誇りは今は肩下までの長さしか残っていない。 「……髪、短いですね。鬼無の女性は短くても腰下までと言われているのに」 「だろう!」 「うるさい」  急に耳元で叫ばれて、ローレンスは顔をしかめた。今の声量で姫が起きてしまったのでは、と危惧するが一定の間隔で動く背中から熟睡しているようだ。ほっと胸を撫で下ろす。 「本当に、姫に失礼なことを言っていませんよね?」 「していない! ……と、思うのだが」  語尾を濁すアランに、ローレンスはまた顔をしかめた。アランが「していない」というなら信じたいが、純真に相手の地雷を踏み抜くことがあるので難しい。  ……まあ、ほぼ確実にあの馬鹿――否、ジェラルド王子のせいなのだろうが。 「どうしよう。どうすればいいんだ?」  不安に駆られたアランに肩を揺すられ、視界が揺れる。寝不足と疲労から最悪のコンディションの中、それをされたら胃の奥から喉へと胃液がせり上がり、猛烈な吐き気に見舞われる。  大の大人が人前で嘔吐など、絶対に回避したいローレンスは苛立ちも相まって乱暴にアランの手をはたき落とした。  勇ましい容貌だが温厚な主人は叩かれたことにショックを受けた顔をしながら、叩かれた手を摩る。 「……すまん」 「とりあえず、休ませましょう。姫も疲れたのでしょう。鬼無からヴィルドールに来て、あの馬鹿王子の相手をして、ここに連れてこられたのですから」 「だが、あそこじゃ暑くないか? 移動させた方が」 「ですね。姫をお部屋に連れて行ってください」 「俺がか?!」 「従者である私が姫に触れることができるとでも?」  にっこり、と笑顔で凄んで見せればアランは小さく「いいのだろうか」と呟き、視線をそらす。  主人が何に悩んでいるのか察したローレンスはあからさまにため息をはいた。 「お二人はご夫婦なのですから問題はありませんよ」 「なものではないだろう」  これは、いわゆる偽装結婚というものだ。姫の正式な夫はジェラルド王子であり、アランは義兄。本当の夫婦ではない。 「正式ではなくても姫はあなたを夫だと認識しているのです。国王陛下もを認められました」 「しかし……」
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