不細工な花嫁

1/5
前へ
/27ページ
次へ

不細工な花嫁

不細工(ぶさいく)すぎる!!」  部屋に響き渡る言葉に卯野(うの)春子は瞬きを繰り返した。不細工とは容姿が整っていない人物のことを指す言葉のはず。嫁入りする前にこの国の言葉を覚えようと一生懸命、勉強したので間違いではない。  しかし、その言葉を夫であるジェラルド・ド・ヴィルドールは春子に使った。初夜の(ねや)という、夫婦の仲を深める場所で。いざ、肌を重ねようと夜着(よぎ)の帯を解いた時に。 「えっと、誰がでございましょう?」  春子ははにかみながら問いかけた。先程の単語が気の所為だと思いたかった。  だって、春子は鬼無国(そこく)ではとまで称された美貌を持っているのだ。美しいや麗しいと言われても不細工だなんて言われる理由はない。  ジェラルドはヴィクドール人らしい()りが深い精悍(せいかん)な顔立ちを嫌悪に染めると春子を見下ろし、怒鳴りつける勢いで容姿を細かく指摘し、糾弾し始める。  その声が聞こえたのだろう。寝台を隠すように天井から垂れ下がった布の向こうで見届け人として集まった貴族達が笑いを噛み締める声が聞こえた。 「太りすぎだ! くびれもなく、尻も貧相!」  浴びせられた怒声に春子は婚礼で見たこの国の女性を思い出す。皆、すらりとした肢体(からだ)をしていた。腰は異様なほど細く、その割に胸や尻が大きかったので農民の出自なのだろうと春子は思った。鬼無国ではふくよかな肢体は富の証で、貧相な肢体は労働者の証だ。今思えばあの場に集まったのはこの国でも貴族に当たる人間達なので、その考えは間違っていた。 「顔も薄っぺらく、その目は開いているのか?」  今まで、何度も褒められていた特徴を嘲笑われると流石に傷付く。周囲の嘲笑(ちょうしょう)もより一層と酷くなり、春子は拳を握り締めて感情を殺そうとした。  ジェラルドが冗談ではなく、本気で春子を醜いと思っていることは流石に分かっている。その証拠に深い翡翠色の瞳には嫌悪が宿っていた。 「髪も瞳も、地味で面白みもない」  言われた言葉には春子は内心で同意した。春子の髪色と瞳の色は黒一色だ。ヴィルドール人のような美しい色ではない。地味と思われても仕方がない。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加