不細工な花嫁

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 アラン・シヴィルは顔を顰めた。元より子供が見たら泣き出す形相が更に醜く歪むが気にする余裕は微塵もない。自分の手にあるが厄介なものであると分かっているからだ。 (魔獣退治か、はたまた遠征(えんせい)か……。悪い知らせであることは間違いないな)  アランの手には王家の封蝋印(ふうろういん)が押された二枚の手紙がある。封は開けられていない。届いた時の状態のままの手紙(それ)とにらめっこを続けていると乳母兄弟のローレンスが静かに問いかけた。 「中身をご覧にならないのですか?」  アランはかれこれ三十分も手紙とにらめっこを続けている。早く中身を確認しなければいけないのだが、開ければどんな災厄が湧いて出てくるか、考えただけで恐ろしい。  たっぷりと悩んた末、まず、薄い封筒を開けることにした。差し出し人は異母弟であるジェラルド王太子からだったのでアランは少し驚く。庶子であるアランを犬の子だと(ののし)り、(あざけ)り笑ったあの少年が正規手続をして手紙を出すなど今まで無かった。  と、同時に分厚い封筒から開ければ良かったと後悔する。絶対に災厄はこの手紙がもたらすと理解したのだ。 「……は?」  思わず、声を漏らす。もう一度、便箋(びんせん)(つづ)られた文字を読み込み、分析し、理解した末に「は?」と同じ言葉を口にした。ローレンスが不思議そうな眼差しを向けていることに気がついて、便箋を差し出した。  最初は受け取ることをためらっていたが「この城には俺とお前だけだ」というアランの言葉に頷き、便箋を受け取る。そこに書かれた言葉を理解したローレンスも「は?」とすっとんきょうな声を上げた。 「……申し訳ございません。疲労がたたっているのでしょうか」  目頭を揉みながらローレンスは現実逃避を図った。父王が後ろめたさから与えてくれた屋敷は、二人で住むには広大すぎた。ローレンスは乳母兄弟だが、執事兼使用人としてアランに同行してくれた。食事や掃除など、任務がなければアランも手伝うが基本的に雑用はローレンス一人が(にな)っている。その負担が大きいことは知っているが、新しい使用人を雇えば弟が嫌がらせで引き抜くため対処のしようがない。 「いや、間違えていない。俺も同じ内容が見えている」 「それは良かったと言えばいいのか……」 「悪い知らせだな」  アランは手紙を睨みつけた。何度読んでも書いてある文章は同じ。五枚に渡って書きなぐるように綴られているそれを要約すると「鬼無国の姫を嫁に貰ったが醜くて気に入らない。表向きじゃ死んだことにしてお前にやる」というふざけた内容だ。 「醜い娘か」  アランは無意識に自分の左半分の顔を撫でた。米神(こめかみ)から顎の大部分を覆うケロイド状の傷がある。かつて、強酸を吐く魔獣と対峙した際に負ったものだ。  この傷のせいで左目尻は吊り上がり、歯茎が露出し、笑みを浮かべようとしても引き攣って上手く行かない。いつしか仮面で覆うようになったこの傷を、あの弟は「醜い」と罵ったのは記憶に新しい。
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