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「……指?」
あたしがオウム返しで答えると、光輝はほらね、という顔になって、
「そう、その子が自分の指を切り落として、俺のジャンパーのポケットに入れたんだよ! すごい発想だと思うだろ? 俺がいろいろその子のポケットに入れたのは、俺がその子のことを嫌いだからで……やりかえすなら、俺が一番嫌いなもの……つまり、自分を俺のポケットに入れるのが一番の仕返しになるって考えたんだよ」
『都会の学校に馴染めなかった』……その女の子の転校理由を光輝はそう言っていた。
それって……都会とか田舎とかいう問題じゃ……。
あたしは引きつった顔で前方を見た。――駅。駅は、まだ?
いつもならあっと言う間に着いてしまうはずの駅にまだ着かない。
早く。早く着いてよ。
そんな気持ちでじりじりしながら、沈黙に耐えられずにあたしは尋ねた。
「そ……その子、そのあとどう……なったの……?」
「そのあと? 指を切り落としたあと? ――学校に来なくなっちゃってさ。風の噂でどこか病院に入れられたとか、親が迎えに来たとか流れてたけど……どうなんだろうな。あまり、村でも触れちゃいけない感じになってて……そうやって終わったけど、多分あれが俺の初恋だったんだろうな」
懐かしそうに遠い目をする光輝の隣で、あたしは気づけば、かじかんだ指でバッグの肩ひもを力いっぱい握りしめていた。
光輝の顔が、別人のように見えて胃のあたりが痺れたように凍り付く。
「ね……ねぇ、今のって怪談? 作り話……だよね?」
「え? 実話だよ。――渡辺が、俺のコートのポケットに手を入れたいって言うから話したんじゃん」
「そ、それがどうして今の話に繋がるの!?」
「だから」
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