水まんじゅうは水入らず

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  「道中の様子まで中継してくれなくてもいいよ。ユミが歩くたびに画面が揺れるから、酔いそうやし」 「ごめんごめん、そうやね。でもその前に……ちょっと待ってね」  ユミは立ち止まって、ゆっくりとその場で旋回して周囲の様子を見せてくれた。 「せっかくだから、岐阜の街並みも見て欲しくてね。佐賀と比べてどう?」 「こう言っちゃなんだけど、思ったより建物が大きく見えるんよね。岐阜ってもっと田舎でさ、佐賀とは友だちだと思ってたからちょっとショック」 「すぐ自虐的になっちゃうのがピッピの哀しいサガやね」 「ギフン」  そりゃギャフンじゃろ、とツッコミの後でユミは笑い、「じゃあ通話に戻すついでに休憩しよっと」と画面を暗くした。声だけのやり取りに戻る。  ユミはいま、病気だ。命に別状はないが、原因は分からないと言っていた。  急に体がダルくなり、明らかにおかしいと思って診察を受けたところ、筋痛性脳脊髄炎──僕でも聞いたことがある名前に言い換えるなら、慢性疲労症候群──と診断されたらしい。  
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