水まんじゅうは水入らず

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  「まるで水まんじゅうの集合住宅地みたいだね」  生き生きしている上に密集しているから、なおさら教科書で見た細胞みたいに見える。  お猪口という頑丈な容器に守られているから、植物細胞ということにしよう。敢えて言葉にはしないけれど。  ユミが三個入りのを注文すると、その場で店員さんの手によってお猪口から取り出され、氷水の入った木のマスに移された。 「じゃあ店の前のテーブル席に移動するね」  ユミは席に座ると、「どう? おいしそうでしょ?」と新鮮な水まんじゅうの映像を送ってくれた。  お猪口から解放された水まんじゅうは、冷たい水の中で泳ぎながらひと休みしているように見える。気持ちが良さそうだ。 「ちょっと疲れたから、食べながら休憩するね」 「ゆっくり食べて、ゆっくり休んでいいよ。付き合うから」 「ありがとう」  ふーっ、と深い息の音が聞こえた。  ユミのスマホはテーブルに置かれ、暗い画面に戻る。  
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