水まんじゅうは水入らず

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  「なかなかね、ままならないもんだね。今日はちょっと電車に乗って、ちょっと歩いただけなんだけど」 「急がなくていいさ」  やや間があって、「あっ、もう、このっ」と聞こえた。どうしたの、と僕が尋ねると、 「水まんじゅうを半分に切ろうとしたんだけどね、水の中で逃げられちゃったの」  とユミは言った。 「じゃあさ、すくってひと口で食べちゃいなよ」 「えー、もったいなくない?」 「逃げるくらい活きが良いんだから、切らずに食べた方がユミも元気になるかもよ。それこそ、生きた細胞を取り込む感じでさ」 「まだ言うか」と笑いつつ、うーん、でもそうなのかなぁ、と悩む声が聞こえた。  腕組みでもしながら水まんじゅうと見つめ合っているのかもしれない。 「イメージしてごらんよ」 「うん……なんとなく、水まんじゅうが元気な細胞に見えてきた、かも」 「よし、ひと口でいっちゃえ」 「もうっ、他人事だと思って」  ユミの笑い声が聞こえる。  実際は──辛いだろうな、と思う。筋痛性脳脊髄炎の話を聞いた後で症状について調べてみたけれど、今日の外出だってかなりの挑戦であるはずだ。  僕にとっては他人事なのだから、必要以上に、想像だけで、ユミの気持ちに寄り添いすぎないようにしたいと思っている。  必要なときに水まんじゅうを元気に泳がせる、冷たい水のような存在でありたい。  
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