5人が本棚に入れています
本棚に追加
恋をしたあの日と、そっくりな台詞。
私が落とした雪玉をかるがると持ち上げた世寿は、にこにこ笑ってこちらを見ていた。その姿が、あまりにも、あまりにも重なりすぎて。
「……嘘じゃん」
気づけば、口にしてしまっていた。
「私のこと、覚えてないって。嘘でしょ」
「ごめん」
「やっぱり。なんで嘘ついたの」
偶然で、こんなにシチュエーションが似るわけない。そもそも、気を使われていたと思ったのは気のせいではなくて。
「だって、衣奈……あたしのこと男だと思ってただろ」
雪玉を乗せながら言う世寿。
「再会した時に、明らかにショック受けた顔してたじゃん。バレバレだっつの。だったら……別人ってことにしといた方がいいのかって思ってさ」
「神屋敷世寿なんてレアすぎる名前で、それは無理だってば……」
「だよなあ。しかもあたしもあたしで、お前のことついつい気になってちょっかいかけちゃうし、やっぱ駄目だよなあ。……ああ、一人称だけど、人前だと“あたし”って言うことにしたんだ。親がうっせえからさ。違和感すげえんだけど、仕方ないかなって」
「そっか」
ひょっとしたら。世寿も世寿で、苦しんだことがいろいろあったのかもしれない。悩んだことも少なくなかったのかもしれない。
なんだか申し訳なさと自己嫌悪で、ぽろりと涙が零れてしまった。何もかもお見通しだったのに、一人でみっともなく踊っていたことに関しても。
「な、泣かないでくれって!そ、その……嘘ついたのは悪かったけど、でも」
そんな私を見て、世寿はおろおろしながらハンカチを出してくれる。そして、ちょんちょんと私の涙を拭った。
「でも、衣奈とまた雪だるま作りたいと思ったんだ。駄目か」
「駄目、じゃないけど」
「もう一つ。……女同士って、本当に恋はできないのかな。あたしも、あんまそういうの、わかってるわけじゃないけど、でも」
「…………」
捨てなくてもいいのだろうか、この気持ちは。
汚くて、みっともなくて、醜くて、情けなくて。それでも、彼女はいいと、そう言ってくれるのだろうか。
「……わかんない」
だから私は。鼻をすすりながら言うのだ。
「わかんないから……試してみよっか」
その日、私の雪の思い出はもう一つ増えた。
だいぶしょっぱい味がして、不細工な顔をしていたけれど。
最初のコメントを投稿しよう!