初恋と雪だるま

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 ***  小学校の四年生の時、親の仕事の都合で転校することになった私。かくいう世寿も、親が転勤族だと言っていた。だからどこかで、また出会うこともあるかもな、と笑ってくれたのを覚えている。もしそうなったら運命的だし、すごく嬉しいと思ったことも。  結局想いを伝えることもないまま、離れ離れになり――今、私はとある高校へと入学した。  こんなことがあるだろうか、と思ったのである。なんせ、クラスの名簿の中にいたのだから――神屋敷世寿、という、どうあがいても名前被りしないだろう人物の名が。 ――夢、じゃないよね。  胸が高鳴るのを、どうして止められただろう。  彼が鈴木とか佐藤とか、そういう平凡な苗字で。それでいて下の名前も平凡だったなら、同姓同名だって十分にあり得たはずだ。しかし、調べたところ神屋敷なんて苗字は全国に七十人くらいしかいないという。それでいて、世寿、なんていうちょっとキラキラした名前。しかも年齢が一致するなんて、奇跡でも起きない限りあり得ないだろう。  私は緊張しながら、教室で自分の席に座っていた。先生が一人ずつ、簡単な自己紹介をするように伝える。一人ずつその場に立って話すだけだが、それでもこのクラスにいるであろう“神屋敷世寿”を見つけるのには十分だろう。  昔よりかっこよくなっているだろうか。ひょっとして、とてもダサい男子になってしまっているだろうか。期待と不安でいっぱいの中、その瞬間は訪れたのだ。 「神屋敷世寿です。スポーツは一通り得意なので、どこの運動部に入ろうかめっちゃ悩んでます。よろしくお願いします」  マジで、と思った。いや、確かにその可能性もゼロではなかったのだが。 ――うっそやん……!?  立ち上がったその人は、背が高くて、ちょっと筋肉質でスレンダーな体つきで――スカートを履いていた。うちの学校の、女子の制服。  あんぐりと口を開けるしかなかったのである。  まさか初恋の“よっちゃん”が女の子だったなんて、思いもよらなかったのだから。
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