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名前被りの可能性は、限りなく低い。
それでも私は確かめに行かずにはいられなかった。休み時間に、友達に囲まれていた世寿のところに足を運んだのである。
「あ、あの……神屋敷、さん」
「ん、なんだ?」
少し低いけれど、それでも間違いなく女の子の声。さっきは背が高くてスレンダーだと思ったけれど、よく見ると胸も結構大きい。
女装じゃなくて、確かに女の子だった。でも。
――やっぱり、顔、似てる……。
というか、面影がばっちり残っている。少し癖の強いショートカットの茶髪も、茶色がかった釣り目の瞳も。
「そ、その。私、衣奈……浅井衣奈って言うんだけど。しょ、小学生の時……近くに住んでた、かな?一緒に遊んだりした?東京の、S町で」
もうずっと昔のことだし、神屋敷世寿と一緒に遊べた期間は一年と少し程度だった。だから覚えていなくても仕方ないだろう。しかし。
「……すまん、わかんね」
彼ないし彼女は、私の顔をまじまじと見て言ったのだった。
「親が転勤族でさ、あっちにこっちに引っ越ししまくってたからわかんねえんだわ。今はそれも落ち着いたんだけど……友達も一緒に遊んでもすぐ別れてってことが珍しくなくて。だから、ちょっと覚えてない。ごめんな」
「そっか……」
覚えてない。一番もやもやする答えが来てしまった。
私が好きなのは、あくまで男の子の神屋敷世寿だ。女の子だと分かった以上、恋なんてできない。初恋は夢のまま諦めるしかない。でも。
そもそも、私が知っている神屋敷世寿と、目の前の彼女が同一人物かどうかがわからない。限りなく可能性が高いけれど、断言はできない。
覚えていると言われたら確定できたのに、覚えてないということは――そんな事実があったかどうか、確認することさえままならないということではないか。どこかに別の、私が恋した男の子の世寿がいるかもしれない、ということになるわけで。その可能性が、一ミリ程度だけれど残ってしまうわけで。
同時に。
――忘れたかもしれない、ってことだよね。……こっちは覚えてるのに。
それも、なんだかもやもやしてしまう。
――忘れたの?あんなに優しくしてくれたのに、大好きだったのに。そう思ってたのはやっぱり……私だけだったって、そういうことなのかな。
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