初恋と雪だるま

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 ***  多分、彼女は何も悪くない。私が知っている神屋敷世寿と同一人物であっても、そうでなくても。  だって別に、幼い頃世寿は一言も“私が好き”とは言わなかったし、男の子だ、とも言わなかった。一人称は俺、だったけれど別にそういう女の子がいたっておかしくない。ボーイッシュな服装をしていたからって、だから男の子だと確定するべきでもなかった。なんなら、特にLGBTだとかそういうことがなくても、服装は異性のものを好むって人も世の中にはいるだろう。  そして、お互い転勤族の親がいて、引っ越しをしまくっていたのである。そしてもう、七年以上の月日が経過している。お互いの顔さえ一致しなくなってもおかしくない。それらの覚悟を、どうして自分はしていなかったのだろう。  世寿を責めるのはお門違いだ。自分が期待しすぎていたのがいけないのだ。わかっている、わかっている、でも。 「卵焼き作る時は、数回に分けて巻いた方がいいらしいぜ。ちょい貸してみ」 「あ、うん……」  向こうは、普通に“同性のクラスメート”として距離を詰めてくる。明るくて、友達が多くて、スポーツ万能で成績も良い。そして、私みたいなどんくさい子をほっておかない。困っていたらすぐに駆けつけて手を貸してくれる。  調理実習でまごついていた私を助けてくれるのだって、他意はないだろう。彼女は誰にだって優しい、そんなのはいつも目で追いかけていればわかることだ。  それなのに、心の柔らかいところが、きしきしと軋むのを感じるのである。小学生の時と何も変わっていない。面倒見がいいところ、正義感が強いところ、天真爛漫なところ、困った人をほっとけないところ。  共通点を見つけるたび、やっぱり同じ人なんだと、そう思ってしまう。そして。 ――優しくしないでってば。私、貴女のこと露骨に避けてるの……わかるでしょ?  なんで、嬉しいなんて思ってしまうだろう。  彼は、彼女だったのに。女の子なのに。 ――駄目だってば。期待しちゃいけないし……向こうは何も覚えてないし、別人かもだし。……女の子相手じゃ、恋なんかできないんだから。私、そんなんじゃないんだから。  微妙な関係のまま。結局、少し遠いクラスメートのまま。  気づけば季節は春を超え、夏を通り過ぎ、秋を忘れて冬になってしまっていたのだった。
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