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その夜、東京は久しぶりの大雪だった。
もちろん大雪といっても、北海道とか青森とかに比べたら大した積雪ではないだろう。雪下ろしをしなければ屋根が潰れる、なんてこともない。
それでも公園に向かう子供達ははしゃいでいたし、ちょっとした雪だるまや雪合戦ができそうなくらいには雪が積もっていた。ここで交通機関の心配をしてしまうあたり、私も微妙に年を食ったんだなと思ってしまう。
「さぶ……」
木曜日。
手芸部の私は今日、部活動がない。学校から帰ろうとしたところで、なんとなく校庭に目が向いた。
高校生なのに、男子の数名が雪玉を投げつけて遊んでいるのが見える。男の子の方が子供の心を忘れないというものなのかもしれない。今日は部活動ができない運動部も少なくないだろう。早々に中止が決まったからなのか、いつものようにサッカー部や野球部のメンバーを見かけることはなかった。遊んだりふざけている生徒はちらほらしていたが。
「……雪かあ」
雪を見ると、いろいろ思い出してしまう。私の初恋も、さながら雪が解けるように消えてなくなってしまえば良かったのに。
鉄棒の脇に大量に積み上がった雪の山を見て、気づけばそれを手に取っていた。手袋が濡れてしまうと気づいたものの、思わず小さな雪玉を作り、転がし始める。
わくわくしながら雪だるまを作っていた幼い日のことを思い出していた。どんな子を作ろうか。誰より大きな子を作ろうか。それとも小さなお友達をたくさん作ってあげようか。鼻は、目は、何か作れる道具はあるだろうか。可愛くするには、かっこよくするにはどうしたら。
――でも、私は不器用で。一人で完成させられることは、なかなかなくて。
あの日もそう。
いじめっ子が壊さなくても、きっと私だけでは作れなかっただろう。バランスもガタガタで、今にも上の球が転げ落ちそうになっていたのだから。
そう、今だって。
「あっ」
一つ目の球の上に、もう一つ球を積み上げた途端。ごろん、と転がっていってしまう雪球。少し大きくしすぎただろうか、とそうしょげていた時だ。
「少し、下の段の球を安定させた方がいいと思うぞ」
声がした。あの時と同じ、でも少し低くなった声が。
「大丈夫だって。お前はセンスがいいからきっと作れる。あたしも手伝ってやるから、一緒にやろうぜ」
『大丈夫だ。今度はあいつらに邪魔させねえ。衣奈はセンスがいいから、俺達が一緒に作ればすぐ終わるさ!』
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