初恋と雪だるま

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 恋をしたあの日と、そっくりな台詞。  私が落とした雪玉をかるがると持ち上げた世寿は、にこにこ笑ってこちらを見ていた。その姿が、あまりにも、あまりにも重なりすぎて。 「……嘘じゃん」  気づけば、口にしてしまっていた。 「私のこと、覚えてないって。嘘でしょ」 「ごめん」 「やっぱり。なんで嘘ついたの」  偶然で、こんなにシチュエーションが似るわけない。そもそも、気を使われていたと思ったのは気のせいではなくて。 「だって、衣奈……あたしのこと男だと思ってただろ」  雪玉を乗せながら言う世寿。 「再会した時に、明らかにショック受けた顔してたじゃん。バレバレだっつの。だったら……別人ってことにしといた方がいいのかって思ってさ」 「神屋敷世寿なんてレアすぎる名前で、それは無理だってば……」 「だよなあ。しかもあたしもあたしで、お前のことついつい気になってちょっかいかけちゃうし、やっぱ駄目だよなあ。……ああ、一人称だけど、人前だと“あたし”って言うことにしたんだ。親がうっせえからさ。違和感すげえんだけど、仕方ないかなって」 「そっか」  ひょっとしたら。世寿も世寿で、苦しんだことがいろいろあったのかもしれない。悩んだことも少なくなかったのかもしれない。  なんだか申し訳なさと自己嫌悪で、ぽろりと涙が零れてしまった。何もかもお見通しだったのに、一人でみっともなく踊っていたことに関しても。 「な、泣かないでくれって!そ、その……嘘ついたのは悪かったけど、でも」  そんな私を見て、世寿はおろおろしながらハンカチを出してくれる。そして、ちょんちょんと私の涙を拭った。 「でも、衣奈とまた雪だるま作りたいと思ったんだ。駄目か」 「駄目、じゃないけど」 「もう一つ。……女同士って、本当に恋はできないのかな。あたしも、あんまそういうの、わかってるわけじゃないけど、でも」 「…………」  捨てなくてもいいのだろうか、この気持ちは。  汚くて、みっともなくて、醜くて、情けなくて。それでも、彼女はいいと、そう言ってくれるのだろうか。 「……わかんない」  だから私は。鼻をすすりながら言うのだ。 「わかんないから……試してみよっか」  その日、私の雪の思い出はもう一つ増えた。  だいぶしょっぱい味がして、不細工な顔をしていたけれど。
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