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初恋と雪だるま
小学校の時、私は初めての恋をした。
その子の名前は神屋敷世寿。かみやしき、が苗字でよじゅ、が名前である。まるでどこかの作家のようなレア苗字と名前だが本名だという。
少しツンツンした茶髪に、鋭い目つきのとてもカッコイイ男の子だった。
私が住んでいたエリアは丁度他の学校の学区と隣接する場所だったため、世寿とは学校が違っていたが。彼を含め、隣の小学校の友達と一つの公園に集まって遊ぶことが、当時珍しくなかったのである。
『よっちゃん、早く早く』
『おう』
難しい名前だからか、みんなにはよっちゃんの愛称で親しまれていた。彼は誰よりも足は速くて身軽で、アスレチックの上なんかもすいすい登っていくような子だった。どんくさい私とは大違いである。
自分が持っていないものを持っている子に憧れる、というのはままあることだろう。私は、世寿の運動神経の良さ、走る姿の美しさに憧れた。それだけではない。
『衣奈。鬼ごっこってのは、足が速いやつだけが勝てるもんじゃないんだぜ』
彼は、いつも仲間の足を引っ張ってしまいがちな私を、けして責めなかった。それどころか、足が遅くても鬼から上手に逃げられる方法を教えてくれて、楽しく遊べるコツを伝授してくれた。
『うまい具合に隠れて、隠れ場所を移動し続けるんだ。いいか、他の奴が狙われてる隙に移動するのがコツ。それと、子供があまり探さない場所に隠れるのがコツだぜ。俺もどうしても上の方は盲点になるからなあ』
『そ、そっか!視線が高いところに昇って隠れるといいんだ!』
『そういうこと。それでいて、時々は移動する。みんな、自分が一度探したところにまさか人がいるとは思わねえからな』
そんな彼に、本気で恋をしたと自覚したのは、多分あの時。
小学校三年生の冬、雪がたくさん降って、みんなで雪ダルマを作った時だ。
いたずらっ子にせっかく作った雪だるまを壊されて泣いていた私のところに来て、一緒に作り直そうと誘ってくれたのが彼だったのである。
『大丈夫だ。今度はあいつらに邪魔させねえ。衣奈はセンスがいいから、俺達が一緒に作ればすぐ終わるさ!』
少し遅い時間まで、一緒に頑張ってくれた。
そんな子を、どうして好きにならずにいられるだろうか。
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