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ユキの背中に跨がり、街を駆けて行く。
雪を蹴り上げて颯爽と走るユキにふと疑問を抱く。
「ユキ、あなたの体は雪で錆びたりはしないのかしら?」
「ご心配には及びません、お嬢様。わたくしの体は防水加工を施されておりますので、水陸両用なのでございます! 更に耐熱加工も施されておりますのでマグマにも対応しております! あ、少しの間であれば空も飛んでみせます」
「そう、あなたはなんでも出来るのね」
「はい、そのように設計されておりますので!」
得意気な声で言うユキに私は思わず口元を緩める。この子はいい相棒になりそうだ。
「ああ、僭越ながらお嬢様」
「なにかしら」
「空から降るこれは雪ではありません」
「え?」
顔を上げ、灰色の空から降り注ぐ白いそれを見つめる。
「所謂"死の灰"にございます。これは原子爆弾や水素爆弾など、原子核反応を利用した爆弾が爆発するときに放出される放射性物質です。 決して触れたり、吸い込んだりしないようお願い致します。被爆して死にますので」
……ああ、これは雪ではないのか。
私が生まれお父様とお母様が喜んでくれた日に降っていた雪、お母様が亡くなった日に降っていた雪、塞ぎ込む私を励ます為にお父様が遊んでくれた日に降っていた雪──雪には辛いことや楽しいこと、色々な思い出がある。
そのかけがえのない思い出が汚された気がして、私は堪らなく悲しくなる。
ユキの背中の上で私はおいおいと泣いた。
灰は降り止むことなく静かに世界を覆っていく。
《終》
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