0人が本棚に入れています
本棚に追加
まっ直ぐに見つめる視線に対抗するかのように、僕は両手をズボンのポケットに入れて君を見返した。
だけど、その強いまなざしにひるんで思わず顔を背けた。
君は何も言わずに向こうを向き、歩き出した。
僕は顔を上げ、じっとその背中を見つめるだけだった。
少しずつ遠のいていく細い後ろ姿。
不意に君は足を止めて僕の方へ振り向いた。
寂しげな笑みを浮かべると、小さく手を挙げて、ゆっくりと振る。
僕は身動きもできずに、ただ、そんな君を見つめていた。
君は寂しげな笑みのまま前を向き、再び歩き出した。
僕は近くまで走って行って、その肩に手を置いて君を引き留めたい衝動にかられた。
だけど、やっぱり何もできずに、ただ立ち尽くして小さくなっていく君の姿を見ているだけだった。
遥か彼方と思えるほど先で、君はまた足を止め、僕を見た。そして手を空に向かて伸ばすと、大きく振った。
何度も、何度も。
遠すぎてもう、君の表情を見ることはできなかった。
僕は凍り付いたようになって、ただその姿を見つめるだけだった。両手はズボンのポケットに入れたままで、やっぱり君に応えてやることはできなかった。
君は振っていた手をおろすと、向こうへと駆け出した。
僕はその姿が見えなくなるまで見続けた。
僕の両手はずっとポケットの中だった。
終わり
最初のコメントを投稿しよう!