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「そのポケット、何入れてんの?」
歩きながら聞かれたので、ジャケットの左右に内ポケット、ジーパンのポケットの中身を、順々に取り出して見せる。
「スマホ、
財布、
ガム、
イヤホン、
鍵、
リップクリーム、
モバイルバッテリー、
ティッシュ、
絆創膏、
あと…」
噛み終えたガムを包んだゴミが出てきた。
2つ出てきた。
手のひらの上でコロンと転がる銀の包み紙の丸まったのを、2人でハタと覗き込み。
無言でポケットに戻す。
そのまま連れ立って歩いて。
「何で中身が気になるわけ」
「寒いから」
「ん?」
「いい、いい」
「そ」
言いかけたことを押し流すように、彼女は歩き出す。
その後を追いながら、右ポケットからスマホを取り出す。
「じゃあ、あったかいとこ行こう」
「向こうにカフェある」
馴れないおしゃれをした彼女は足早に行く。
小さなバッグ。
細いヒール。
髪をまとめて、ヘアクリップで留めている。
うなじが見えている。
耳が赤い。
息は白い。
取り出したスマホを、左手に持ち変える。
他に入れられるポケットはない。
彼女の今日のポンチョのようなアウターは、可愛いらしいものの、ポケットがなかった。
右手を伸ばして。
少しだけ屈んで。
なんとか。
揺れるその左手を。
掴んだ。
終
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