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「僕が罪人でここから出られないことも」
「ざい、にん?」
「カケルさんが配達人で、君はここに来るはずじゃなかったって事も」
淡々と喋り続けるクラゲに、体中が粟立つのを感じた。
「比良野はどんな風にだって姿を変える」
クラゲの視線が俺の背にある家へ移る。
「な、なんの話だよ」
そのまま視線は俺へと向けられた。
「今見ている比良野は、アッキーが作り出した幻想だってこともね」
「幻想?」
「おい、園部。いい加減に諦めろ。手紙も返すんだ」
「カケルさん。手紙って……クラゲ、お前が持ってるのか?」
山道を降りてきたカケルさんはクラゲに詰め寄ると「早く」と手を差し出す。
クラゲの耳元に顔を寄せたと思うと、すっと顔色を変えたクラゲがごそごそとズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「やだな。日中ここに来た時に拾っただけだよ」
ぐしゃぐしゃに丸まったあの封筒を広げてみる。
「え――」
何も書いてなかったはずだったその白い無地の封筒には、見慣れた文字があった。
【大介さんへ】
「やっぱり彩子からだ……」
切手代わりだと思っていた白い紫陽花の花弁には、消印までも浮かびあがっている。
紫陽花郵便
青いインクのそれは、小さな紫陽花とかたつむりが円になるように葉や茎で繋がれたデザインだ。
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