14人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
プロローグ
ここはどこだろう。
長い長い距離を歩いてきた気がする。
文句のつけようも無いような青空と、懐かしいような入道雲。
そこへまっすぐ伸びる道は、どこへ続いているのだろう。
わあわあと聴覚を埋め尽くす蝉時雨がまた、どこか切ないような気持ちにさせる。
戻ろう。
そう思ったとき、ふっと蝉時雨が鳴り止んだ。
「戻ってはいけない」
え?
「そっちは来た道じゃないから」
道の先に、ゆらりゆらりと蜃気楼に溶ける人影があった。
どうして?
尋ねようと口を開こうとすると、ふわりと人影は空に滲んで霧散してしまった。
再び蝉時雨が世界を埋め尽くす。
あぁ、そうだ。思い出した。
戻らないと。
この先には行かないと決めたのだから――
最初のコメントを投稿しよう!