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私が初めて遠野守くんことマモちゃんのことを意識したのは、ある休み時間の廊下でのことだった。
高校入学早々、私の中学からの友達である亜美は、隣のクラスの中野くんに言い寄られていた。亜美本人は「ハッキリ言われたわけじゃないし」と否定するけど、傍から見ていて中野くんの猛アタックっぷりはすごい。この世の女子は亜美しかいないくらいの勢いだ。それから二か月ほどたった今、亜美も、中野くんのことが気になり始めていた。
そんな二人が移動教室の帰り、廊下でばったり会った。
私は二人の会話の邪魔にならないようにと、少し離れて校舎の外を眺めていた。坂の上にあるこの海陽高校からは、遠くに海が見渡せる。駅から坂道を登るのは大変だけど、私はこの校舎から眺める海が好きだった。太陽の光を受けた海は青く、キラキラと輝いていて。
「ここから見る海っていいよな」
気付いたら、隣に遠野くんがいた。中野くんと遠野くんはだいたいいつも一緒にいるから、顔と名前は知っている。でも、面と向かって話をするのは初めてだった。
「あっちもキラキラ、こっちもキラキラで目がやられそう」
遠野くんが私だけに聞こえるくらいの声で海と、中野くんと亜美に目をやり、いたずらっぽく肩をすくめた。思わず笑う私に、遠野くんがニカっと笑い返す。その片方の頬にえくぼが覗いて、なんか可愛い。
ふいにえくぼが消えた。視線を感じて、彼の目を見る。
「目、茶色くない? 綺麗だね」
私は地毛も茶色っぽいし、瞳の色も茶色い。それは知っているけどびっくりした。女子からそう言われることはあっても、男子からまじまじと「綺麗」なんて言われたことはなかったから。自分でも、顔が赤くなっているのがわかる。
「いや、俺見ての通り真っ黒だからさ、いいなぁって思って」
見ると、彼の顔も心なしか赤いような。彼はそれを誤魔化すみたいに、片手で自分の襟足に手をやった。
「いつも中野くんと一緒にいる人」から、「ちょっと気になる遠野守くん」に変わった瞬間だった。
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