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 天気がいいから外でお弁当を食べようと亜美に誘われ、二人で中庭でお弁当を食べていた。 「ひかり、大丈夫?」  マモちゃんに会いたくて姿を探すくせに、いざ見かけると逃げ隠れして。そんな私に、亜美が気付かないわけがなかった。  なんでこんなことになってしまったんだろう。私はどこで間違ったんだろう。ただマモちゃんのことが好きなだけなのに……。亜美に背中をさすられて、我慢していたものが溢れる。私は泣きながらつっかえつっかえ現状を話した。 「でも、まだそうと決まったわけじゃないし……あたし、さり気なくハルに聞いてみようか?」  私はあわてて首を横に振る。とにかく話し合いが必要なことはわかっているけれど、どうしても踏ん切りがつかない。怖い。 「おっす~。いいね、中庭でランチって」  後ろから、遅刻してきた茂木ちゃんののんびりした声がした。 「茂木ちゃん……エッ! どうしたのそれ!」  亜美の声に、私も振り返る。びっくりして涙が引っ込んだ。美しい茂木ちゃんの左頬が、痛々しく腫れあがっているではないか。 「彼氏が浮気しててさぁ。そんで浮気相手と3人で修羅場よ修羅場。彼氏に怒ればいいのになんでか私が叩かれちゃったってわけ。ひどくな~い?」 「ひどくな~いって……」 「大丈夫。私だって叩き返したし。しかも浮気相手人妻。浮気相手もクズだし彼氏もクズ。泣いてすがられたけど、散々罵ってすっぱりフッってやったわぁ」  あ~スッキリした。茂木ちゃんが私の椅子の端っこに座ったから、ちょっとお尻をずらして半分こにする。茂木ちゃんからふんわり磯のにおいがした。ふと、遅刻してきたのは海で泣いてたからなんじゃないか、と思って、茂木ちゃんを抱きしめる。向かいに座っていた亜美も、一緒に抱きしめてくれた。  ちょっとぉ~、アタシそんな趣味ないんだけど~、なんて言いつつ、茂木ちゃんの肩が小さくふるえた。 「言いたいこと全部言ってやったし。精一杯向き合ったって自信もって言えるから、ほんとにほんとに、大丈夫なの」 「そっか」 「結果クズだったんだけどさぁ」 「うん」 「ほんと、好きだったんだよねぇ……」  それを聞いた瞬間、心がざわついた。  傷付きたくない一心で逃げ続けている私には、左頬が痛々しくても、ボロボロでも、「精一杯向き合った」と真っ直ぐに言える茂木ちゃんが眩しく見えた。私はこんなに必死になったことってあるだろうか。いつも言いたいことを飲み込んで、聞きたいことも聞けないまま。  今の自分は恋をしてるって、胸を張って言えるだろうか――。
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